カレントテラピー　34-11　サンプル page 11/32

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カレントテラピー　34-11　サンプル

20 Current Therapy 2016 Vol.34 No.111060てみていく．ヒトの腸内には約1,000種，100兆個以上の腸内細菌が存在している．これらはただ無秩序に存在しているわけではなく，お互いがテリトリーを形成して共存しており，「腸内細菌叢」と称される．驚くべきことに腸内細菌叢が有する遺伝子の総数は，宿主の約100倍にも達することがわかっている．腸内細菌は宿主の消化管内において栄養源を得て繁殖の場を享受する．また腸内細菌が宿主にとって難消化性である食物繊維の嫌気的代謝によって短鎖脂肪酸をはじめとする代謝産物を産生し，これが宿主における生理活性をもつことや，常在腸内細菌叢が外来病原微生物の侵入に対して抑制的に働くという感染防御の点においても，宿主は腸内細菌からの恩恵を受けている．短鎖脂肪酸は腸管上皮細胞の増殖や腸管上皮における粘液の分泌といった腸管上皮細胞の恒常性の維持に関与し，さらには腸管内を弱酸性化することによりそれ自身，病原微生物の増殖を抑制する効果を有する．短鎖脂肪酸の一種である酪酸は，腸管上皮細胞におけるムチンや抗菌ペプチドの産生を亢進させるほか，CD45Rbhi 移入腸炎モデルマウスにおいて，制御性T細胞（regulatory T cell：Treg細胞）の転写因子であるFoxp3の発現を誘導することにより大腸粘膜内のTreg細胞を誘導し炎症を抑制する作用をもつことが知られている1）．健常人の腸内細菌叢の約90％は，Firmicutes門，Bacteroidetes門，Proteobacteria門およびActinobacteria門で構成される．Firmicutes門はこのうち最も優勢な門であり，全体の約60％を占める．ここに含まれるClostridium 属cluster Ⅳおよび aに属する細菌の一部は先述の酪酸を高産生する点で重要である．これに次いで多いのがBacteroidetes門であり，全体の約20％を占める．腸内細菌叢の形成は出生直後より離乳期にかけて行われると考えられており，健常な成人の同一個体内においてはその構成は比較的安定であるが，一方で個体間での差は同じ成人の間においても大きい．健常な成人においては，抗菌薬の使用や一時的な食生活の変化といった外的要因によって腸内細菌叢が攪乱されたとしても，その影響がなくなると再び元の腸内細菌叢に戻ろうとするresilienceという機構が備わっているが，この機序についてはまだ十分には解明されていないのが現状である．一方で乳児期に抗菌薬の投与を受けた子どもはその後のCDの発症率が有意に高いことが報告されており2），腸内細菌叢の形成期に攪乱を受けると，その後のdysbiosisや消化管免疫機構の異常につながる可能性が指摘されている．Ⅲ IBDにおける腸内細菌叢の変化とその影響IBD患者においては先述のとおりdysbiosisと呼ばれる腸内細菌叢の菌数と多様性の低下が認められる．dysbiosisは宿主の消化管における異常な免疫反応と深くかかわりがあるとされ，これにより消化管に慢性的な炎症が惹起されることがIBDの病因仮説として現在考えられている．腸内細菌叢は個体間での差が大きいことから，ある特定の菌種の増減を，すべてのIBD患者に共通して当てはめることは困難であるが，UCあるいはCDにおいてみられる腸内細菌叢の変化に関しては多くの報告がある．このうち代表的なものについて表にまとめた3）～7）．CDにおいてはFirmicutes門の減少が指摘されており，なかでもFaecalibacterium prausnitzii（F. prausnitzii ）が減少している報告が多くみられる6），7）．F. prausnitzii はClostridium 属cluster Ⅳの主表　IBDで報告されている主なdysbiosisUC CDFusobacteria門－ －F. varium ↑3） －Actinobacteria門↑4） －Proteobacteria門↑4） －Adherent-invasive E.coli － ↑5）Firmicutes門－ ↓5）F. prausnitzzi － ↓6），7）IBD 患者の腸内細菌叢にはdysbiosisが認められ，細菌数ならびに細菌の多様性の両者において低下が認められる．特にクローン病に関する報告は多く，なかでもFirmicutes門の減少ならびにF.prausnitzii の減少に関しては数多くの報告がある．なお，Bacteroidetes 門に関しては増加・減少いずれの報告もある．F. varium：Fusobacterium variumF. prausnitzii：Faecalibacterium prausnitziiE. coli：Escherichia coli