カレントテラピー 34-10 サンプル page 18/32
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カレントテラピー 34-10 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.10 75代替療法1011が困難な場合には早めに車椅子を導入するなど,歩行障害の状態に応じた移動の習得が重視されてきた.しかし,1990年以降,ネコなどの脊髄損傷動物モデルを用いた研究によって歩行トレーニングにより歩行が大きく改善することが証明され,ヒトにおいても免荷式トレッドミル歩行トレーニング(body -weight supported treadmill training:BWSTT)による歩行の改善が期待された.BWSTTでは立位歩行が不可能な患者であってもセラピストがステッピングを補助することで,トレッドミル上での繰り返しステッピングを実現する.このステッピングに伴って喚起される末梢感覚入力を残存する中枢神経に与え,脊髄および脊髄より上位中枢神経の再組織化を促す可能性が想定されたが,2006 年に行われた大規模な無作為化比較試験では,BWSTT が他の方法(平行棒内での歩行練習,セラピストの介助による歩行練習など)に比較して特に有効という結果は示さなかった7).また,1999年にはロボット型の歩行トレーニング装置としてLokomatR(Hocoma社,スイス)が開発された.LocomatRは外骨格装具の股関節・膝関節部分に駆動モーターを装備し,プログラムされた通常の歩行パターンに従って各関節の動きをコントロールしている.また,訓練者に運動意図がなくてもロボットが100%ステッピングをアシストする8).脳卒中患者におけるLocomatRの歩行改善効果についての検証がこれまで多数行われているが,効果は十分には証明できていないのが現状である9).他動的に歩行運動を繰り返しても十分な歩行機能の改善は認められず,歩行改善にどのような運動療法が有効であり得るかを今一度ニューロサイエンスに基づいて考えていく必要がある.Ⅳ ニューロサイエンスに基づいた運動機能再生システム適切な運動療法とはどのような運動療法だろうか.近年,ニューロリハビリテーションという言葉が注目されているが,本邦においては道免が「ニューロサイエンスとその関連の研究によって明らかになった脳の理論等の知見を,リハビリテーション医療に応用した概念,評価法,治療法,機器など」と定義10)している.「脳の可塑性」については,1949年にカナダの心理学者によるD. O. Hebbが「細胞Aの軸索が細胞Bを興奮させるのに十分近くにあり,繰り返しまたは絶え間なくその発火に関与する場合,何らかの成長過程または代謝性変化が一方あるいは両方の細胞に起こる」と提唱した11).つまりは,「ニューロンAの発火がニューロンBを発火させると2 つのニューロンの結合が強まる」ということであり,シナプス結合が活動依存性に変化することをそのときすでに予想していたのである.近年,「脳の可塑性」は脳機能画像の進歩によって示され,運動学習によって神経が変化することが証明されてきた12).そこで,効率的な運動機能再生を目指すのであれば,まずはニューロサイエンスに基づいた運動学習理論を十分に理解し,その理論に基づいた運動療法を行うことが重要である.運動の仕方についての知識があっても運動学習は達成されず,運動学習には学習したい運動課題を実行した際のフィードバックが重要とされる.フィードバックには内在的フィードバックと外在的フィードバックがある13).筋固有感覚や深部感覚などの運動課題を行っている最中に得られる感覚情報が内在的フィードバックであり,筋電信号や力学的信号,セラピストによる声かけ・ハンドリングなどが外在的フィードバックである.これらのフィードバックを処理することで無意識的な認知過程において行われる学習は潜在学習といわれ,誤りを起こさずに実施させる無誤学習(errorless learning),認知課題などを行いながら進める二重課題学習(dual task leaning)が含まれる.Ⅴ ロボットスーツHALRの役割ロボットスーツHALR(以下,HAL)(図2)は,Cybernics, Mechatronics, Informaticsの一体化を目指したサイバニクス(cybernics)技術を駆使して筑波大学の山海嘉之教授によって開発された生体電位