カレントテラピー 34-10 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.10 731009Ⅰ 加齢に伴う歩行の変化脳の発達に伴って運動機能は発達し,通常1歳6カ月までに安定した二足歩行が獲得される.2~6歳にかけてのバランス保持能力や移動能力は発達の途上であり,5~9歳前後に歩行は成人パターンに到達する1).しかし,62歳を過ぎると歩行速度が急激に低下し2),30歳で1.4 m/秒程であった歩行速度は75歳で0.9m/秒まで低下する.1989年にIrwin Rosenbergは,年齢と関連する筋肉量の低下を「サルコペニア」と提案したが,近年のサルコペニアの定義は「身体的な障害や生活の質の低下,および死などの有害な転帰のリスクを伴う進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群」と概念化され,European Working Group on Sarcopeniain Older People(EWGSOP)が2010年に高齢患者におけるサルコペニアの症例スクリーニングのためのアルゴリズムを示している.そのアルゴリズムによると,まず,歩行速度0.8 m/ 秒をサルコペニアの高リスク者の選定のカットオフ値としており3),歩行速度が身体機能の指標となり得る.歩行速度の低下は日常生活動作(ADL)の低下4)と関連することがわかっており,歩行に影響を及ぼす老化に関連したネガティブな要因としては体力の低下,筋肉量の減少,骨密度の減少,体重の増加,肺機能障害,歩行を制御している中枢神経系の萎縮,感覚機能の低下がある5).逆にウォーキングなどの運動習慣は慢性疾患の罹患率の減少,高齢者の身体的自立度の向上と関連することがわかっており,心疾患,脳卒中,高血圧,2型糖尿病,大腸癌や肺癌,骨粗鬆症,うつ病などの発生率を低下させ,認知症の予防にも効果があると報告されている6).日本は世界で類をみない超高齢化社会を迎え,今*1 国立病院機構新潟病院神経内科*2 国立病院機構新潟病院神経内科・副院長ロコモティブシンドローム─長寿時代の各科に必要な運動器の最新知識歩行障害に対するロボットスーツHAL遠藤寿子*1・中島 孝*2歩行障害は転倒や骨折のリスクを高め,廃用症候群を続発し,さらなる歩行機能の低下を引き起こす悪循環に陥る可能性がある.ロボットスーツHALR(以下,HAL)は生体電位駆動型の装着型ロボットであり,この度,治験によってHAL医療用下肢タイプによる歩行運動療法の歩行改善効果が神経筋難病疾患において証明された.HALはニューロサイエンスに基づいた歩行運動療法を実現し,効率的に運動学習を促し,歩行を改善するが,脳,脊髄,末梢神経,筋肉に起因するすべての歩行障害に有効であると考えられる.よって,歩行障害の悪循環を断ち切り,超高齢化社会を迎えた本邦において要介護を予防し得る方法として今後期待される.さらに近年,再生医療の進歩が著しいが,細胞移植などの再生医療とHALによるサイバニックニューロリハビリテーションの複合療法が,神経再生医療の主流となる可能性がある.