カレントテラピー 34-1 サンプル

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8 Current Therapy 2016 Vol.34 No.18Ⅰ はじめに近年,世界的に肥満の頻度が増加し,それに伴う健康障害が問題視されてきた.諸外国と比べ高度肥満が少なく,最新の国民健康・栄養調査で肥満者の割合の頭打ちが報告されている1)わが国では,時に肥満の問題が軽視されることがある.しかし,肥満を基盤とする糖尿病,高血圧症などの生活習慣病の頻度は欧米と変わらず,日本人を対象とした肥満症対策が求められてきた.そこで,減量することで健康障害の発症頻度を減らすメリットが大きい人を選び出すための,わが国独自の基準が作成された.まず,2000年に日本肥満学会は肥満症診断基準2000のなかで,「肥満」の診断基準を示し,疾患単位としてとらえるべき「肥満症」の考え方を示した2).また,2011年にはその改訂版を報告した3).本稿では『肥満症診断基準2011』の考え方を踏まえ,肥満症の診断と治療の意義について述べる.Ⅱ 肥満の定義と診断脂肪組織が過剰に蓄積した状態が「肥満」である.その意味では,脂肪量を直接に定量するべきであるが,測定に特殊な器械が必要であるなど臨床的簡便性に問題がある.そこで,日常診療における肥満の判定基準には,体重(kg)/[身長(m)]2で算出されるbody mass index(BMI)が用いられる.BMIによる評価は,簡便であることに加え,dual-energy X-rayabsorptiometry法(DEXA法)など他の体脂肪測定法との相関がよいこと4),また冠動脈疾患など肥満に伴う各種合併症の危険因子としてBMIが確立している5),6)などの理由から,その有用性が国際的にも認め*1 富山大学医学部第一内科診療教授*2 富山大学医学部第一内科教授最近の日本人の肥満症─ 新知見が拓くこれからの肥満症診療肥満症の診断と治療の意義薄井 勲*1・戸邉一之*2日本肥満学会は,BMI 25以上の肥満のうち,肥満に起因または関連して発症する健康障害の予防および治療に減量が必要である状態を「肥満症」と定義し,ひとつの疾患単位として取り扱うことを提言した.従来欧米でobesityは,他の疾患を引き起こす「危険因子」として扱われていたのに対し,肥満症を治療が必要な「疾患単位」として扱うことにしたのは,日本肥満学会によって生み出された新しい概念である.日常診療においても,肥満のなかから減量治療を必要とする肥満症患者を適切に抽出することが重要である.食事・運動療法および行動療法を中心とした減量治療によって,現在の体重の3~5%程度の減量を達成することで,高血糖,高血圧,脂質異常症などの有意な改善が期待できる.肥満症の概念の世界的な普及によって,肥満に関連したさまざまな健康障害が世界的に減少していくことが期待される.