カレントテラピー 34-1 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.1 77最近の日本人の肥満症― 新知見が拓くこれからの肥満症診療―企画結核予防会理事・総合健診推進センターセンター長宮崎 滋世界中で肥満が増加しており日本も例外ではない.肥満は糖尿病,脂質異常症,高血圧などの疾患を引き起こし,心血管疾患,脳血管疾患はもちろん,近年では癌や認知症も起こしやすいことがわかってきた.肥満判定の世界基準であるWHO基準では肥満はBMI 30以上であるが,日本ではBMI 25以上を肥満としている.欧米では肥満は単に体重の増加であり,体重が多ければ減量治療を行うと言うストレートな発想しかない.日本では肥満は軽度であるにもかかわらず種々の代謝系の疾患が合併することが多い反面,BMI 35以上であっても関節障害しかなく,代謝系には異常がない症例もあることに注目してきた.その理由が脂肪分布の違いであり,内臓脂肪,皮下脂肪の機能の違いであった.軽微な肥満であっても内臓脂肪の過剰蓄積があれば,種々の疾患が発症するのが日本人の肥満の特徴である.肥満に起因する疾患を合併していれば肥満症であり,治療の対象となる.わが国では,2000年には肥満症(Obesity disease)という概念を世界に先駆けて提案した.2005年に発表されたメタボリックシンドローム基準を受けて,2008年には内臓脂肪蓄積に着目した特定健診・特定保健指導が開始された.国家事業として始まったこの健診・保健指導により,わずか3%の減量で血糖や脂質,血圧,肝機能などの改善が見られることが証明された.肥満,肥満症の基礎・臨床研究が日常診療,健康管理に広く活用されているのは日本の誇るべきところである.肥満症とは治療すべき肥満である.肥満,特に内臓脂肪肥満であるためさまざまな疾患が発症するのであり,減量治療により脂肪組織,特に内臓脂肪を減少させることが疾患を軽快,解消させる.糖尿病,脂質異常症,高血圧など,個々の疾患に対する治療薬が開発され効果を上げているが,それらの疾患の原因が肥満であれば,減量治療を積極的に行うべきであり,治療の有用性が高まるだけでなく,医療費の削減にも寄与すると思われる.日本では臨床,基礎の医師,研究者だけでなく,健診や保健指導に携わる栄養士,保健師等による総合的な肥満,肥満症,メタボリックシンドロームに対する取り組みが行われ,世界をリードする成果を上げている.近年さらに肥満の原因としてエピジェネティクスや腸内細菌叢の異常についての研究に加え,薬物療法,外科療法などの新しい治療も進められている.この特集では肥満,肥満症についての新知見と,これからの肥満症診療が進むべき方向を,その分野の第一人者に執筆して頂いた.診療,研究,指導に活用して頂ければ幸いである.エディトリアル