カレントテラピー 33-9 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.9 7851肝炎治療の今後の展望― ウイルス肝炎は克服されるか―1989年,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)が「新興感染症」の病原体として発見された.肝炎診療はHCV発見以前と以降で大きく変化した.3年後の1992年にインターフェロン(IFN)治療が適応となりHCV感染が治癒するようになった.肝臓領域で「治療学」が主体となった端緒である.当時は「IFNバブル」とも言われる活況を呈したが,その効果は満足できるものではなかった.その後のHCV抗ウイルス療法の進歩は徐々にスピードアップし,今まさに,HCV感染の95%以上が排除される時代になろうとしている.HCV感染症は,新規発生数の少ないわが国などにおいては,希少疾患となっていく可能性が高い.しかし,ウイルス学的著効(sustained virological response:SVR)は,あくまでも「HCV感染」の治癒であることを肝に銘じる必要がある.もとより,すでに存在していた慢性肝炎や肝硬変などの「肝疾患の治癒」にイコールではない.肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)のリスクは軽減されるがゼロにはならない.考えてみれば,「HCV排除によって肝硬変が正常肝臓に戻る」というデータは,もとより存在しない.HCV排除後の患者指導に熱意をもって取り組み,画像検査を含めた定期的検査の必要性を患者によく理解させる必要がある.また,SVR後の飲酒,肥満が発癌を促進することについても説明する必要がある.一方,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は,5種類の肝炎ウイルスのなかで最初に発見された(1964年).小さなゲノムをもつ肝炎ウイルスであるが,しかし,最も複雑で,未だに謎の多いウイルスである.当初は,IFNによる治療が主体であったが,逆転写酵素阻害薬(核酸アナログ)が登場してからは,肝炎の制御が可能となってきている.しかし,核酸アナログによってHBV-DNAが押さえられ,AST,ALT値が基準値内にあってもHCCの発生する例は少なくない.また,HBs抗体が陽性になっても肝臓においては微量のHBV複製が続いている.免疫抑制剤や抗癌剤の使用によってHBs抗体陽性者からHBV再増殖が起こることがあり,重篤な肝障害(de novo B型肝炎)が起こりえる.国民全員にHBワクチンを接種するプログラム(universal vaccination)が,ようやく日本でも導入されることになったことは朗報である.既感染,現感染を問わず,HBV感染をゼロにする努力が必要である.C 型肝炎の抗ウイルス治療は佳境を迎えている.しかし,SVRを達成したあとのHCC発生も克服されなくてはならない.このSVR後の肝発癌には非アルコール性脂肪肝炎(non -alcoholic steatohepatitis:NASH)を含む代謝関連肝癌の関与もある.難病を克服しても新たな敵が現れてくる.肝臓医の大きな使命は続いていく.エディトリアル企画東京大学大学院医学系研究科消化器内科学教授小池和彦