カレントテラピー 33-9 サンプル

カレントテラピー 33-9 サンプル page 29/32

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 33-9 サンプル の電子ブックに掲載されている29ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 33-9 サンプル

80 Current Therapy 2015 Vol.33 No.9924C型肝炎,B型肝炎における肝発癌感受性遺伝子東京大学医科学研究所先端医療研究センター先端ゲノム医学分野准教授 加藤直也ゲノムワイド関連解析(genome wide associationstudy:GWAS)とは,ヒトゲノムに約1,000万ある一塩基多型(single nucleotidepolymorphism:SNP)のうち約100万をマーカーとして,特定の疾病を有する患者がどのSNPをもつかを網羅的に検索し,疾患感受性遺伝子を同定する方法である.東京大学を中心としたグループのGWASにより,C型肝炎における肝発癌感受性遺伝子としてMICA 遺伝子が同定された.興味深いことに,MICAのSNPはMICAの発現量と強く関連しており,MICA発現量が少ないことが肝癌のリスクであった.MICAはウイルス感染,癌化により細胞表面に発現,NK細胞に認識され排除される.肝癌になりやすい人では,C型肝炎ウイルス感染によりMICAが十分に発現せず,NK細胞に排除されにくいため肝癌を発症しやすいと推察される.このことは,MICAの発現を高めることで肝癌の予防・治療へ応用できる可能性を示唆しており,創薬への展開が期待される.広島大学を中心としたグループのGWASにより,同じくC型肝炎における肝発癌感受性遺伝子としてDEPDC5 遺伝子が同定された.肝癌を発症したC型慢性肝炎患者の肝組織におけるDEPDC5の発現は非癌部に比し癌部で亢進していた.現時点でDEPDC5の機能はよくわかっておらず,DEPDC5がどのようにC型肝癌にかかわっているのか,さらなる検討が必要である.中国のグループのGWASにより,第1染色体p36.22,KIF1B 遺伝子のイントロン部分のSNPがB型肝炎ウイルスキャリアにおいて肝癌と関連していることが報告された.KIF1Bはミトコンドリアやシナプス小胞を輸送するキネシンスーパーファミリーのモーター蛋白質である.この領域には,KIF1Bに加えて,UBE 4 B ,PGD 遺伝子があり,これらのいずれかに関連した経路が肝発癌に関与していると考えられた.しかしながら,このSNPは日本人,韓国人ではB型肝癌と関連しておらず,アジア人でも遺伝的多様性があるためだろうと考えられている.ほかにもB型肝炎における肝発癌感受性遺伝子として,主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex:MHC)クラスⅡ分子であるHLA-DQとHLA -DQA1/DRB1,Th1細胞の分化,インターフェロン-γの産生にかかわる転写因子であるSTAT4,グルタミン酸シグナル関連分子であるGRIK1が同定されている.GWASにより信頼性の高いC型肝炎,B型肝炎における肝癌感受性を決定する遺伝子が見つかってきている.それにより,C型肝炎,B型肝炎の肝発癌におけるキープレイヤーとその役割が明らかになり,肝発癌の個人差の解明,オーダーメイド治療を含む新たな治療法の開発や確立につながると期待される.肝炎治療の今後の展望― ウイルス肝炎は克服されるか