カレントテラピー 33-8 サンプル

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90 Current Therapy 2015 Vol.33 No.8826関節リウマチの予後予測因子京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学教授 三森経世関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の予後という場合には生命予後と関節機能予後があり,それぞれに共通する因子もあるが,別個に論じる必要がある.RA 患者の生命予後は一般に健常人に比して悪く,適切な治療が行われなかった時代のRA患者の平均余命は健常人よりも約10年短いとされる.生命予後不良因子としては男性,高齢者,低所得層,関節外症状(間質性肺炎),合併症(心血管疾患),リウマトイド因子(rheumatoid factor:RF),貧血,身体機能低下,高疾患活動性,関節破壊の進行,ステロイド使用が挙げられる.一方,関節機能予後は関節の骨軟骨破壊による関節の変形と機能障害の進行度を反映し,長期的な高度の身体機能障害のリスクを指す.関節機能障害重症化の危険因子として,欧州リウマチ学会(EULAR)推奨2010では高度の疾患活動性,早期からのX線骨びらんの存在,RFまたは抗シトルリン化蛋白抗体(anti-citrullinated protein antibodies:ACPA)陽性を挙げている.他方で米国リウマチ学会(ACR)推奨2012 においては,身体機能障害,関節外症状,骨びらんの存在,RFまたはACPA陽性を予後不良因子として挙げている.これらのほかにも,遺伝的因子(HLA -SE),環境因子(喫煙),MMP - 3 高値が骨破壊や関節機能の予後不良因子となることが報告されている.予後不良因子を有する患者では,早期診断と早期からの強力な治療が強く推奨される.かかる患者においてもメトトレキサート(methotrexate:MTX)を十分量用い,効果不十分の場合には生物学的製剤を使用することによって,骨軟骨破壊の進行を抑制し,長期の関節機能を保持できることが証明されている.しかし,これらの強力な治療がRAの生命予後をも改善させるかどうかについての明確なエビデンスはまだ少ない.海外では心血管疾患がRA 患者においても最大の死因であり,抗TNF 製剤による強力な抗炎症療法が動脈硬化の進行を抑制して心血管疾患による死亡率を低下させると考えられている.英国のNorfolk Arthritis Registerによると,治療開始後1年以内に寛解が導入されその後も寛解が維持された炎症性多発関節炎患者では,最初の3年以内に寛解が得られなかった患者に比して,有意に死亡率が低下することが報告された.しかし,わが国におけるRA患者の主要な死因は,悪性腫瘍,肺炎,間質性肺炎,脳血管疾患,心血管疾患の順であり,治療に関連する副作用リスクを考慮すると,MTXや生物学的製剤による免疫抑制療法が真にRA患者の生命予後を改善させ得るかは今後の調査を待つ必要がある.