カレントテラピー 33-6 サンプル page 19/32
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カレントテラピー 33-6 サンプル
78 Current Therapy 2015 Vol.33 No.6614冷え,口渇,息切れ,これらを漢方医学的に腎虚と呼んでいる.八味地黄丸は腎虚に対する代表的な漢方薬であり,長期服用により呼吸機能の改善が期待できる.咳嗽の強い例は麦門冬湯を合わせるとよい.皮膚乾燥,ほてりのある例,あるいは70歳代以上の高齢者には八味地黄丸を熱薬である桂皮と附子を去った六ロク味ミ丸ガンのほうがよりよい.八味地黄丸も六味丸も,胃腸の弱いやせ型(脾虚と言う)には適さない.服用例の約一割に胃もたれをきたす.2)麦門冬湯伝統医学的な用い方では,麦門冬湯は六味丸あるいは補ホ中チュウ益エッ気キ湯トウなどの補剤と併用して,息切れ,全身状態の改善をはかる.前者は腎虚,後者は脾虚病態である.それぞれ麦バク味ミ地ジ黄オウ丸ガン,味ミ麦バク益エッ気キ湯トウの簡便方となる.単独投与するときは乾性咳など気道の乾燥症状に対して用いる.報告:COPD患者24例に16週投与したところ,無治療群に比較して8週時の咳を有意に軽減させた6).3)苓甘姜味辛夏仁湯慢性鼻炎症状を有するCOPD患者で胸部の苦しさを自覚する例によい場合がある.咳嗽よりも息切れによい.肺気腫に有効であった症例を経験している.5 慢性副鼻腔炎・後鼻漏症候群後鼻漏は治療困難なケースが少なくない.著者の経験では,有効性と副作用の少なさから葛カッ根コン湯トウ加カ川セン?キュウ辛シン夷イを第一選択にできると思われるが,無効な場合には漢方医学的な診断が必要である.1)葛根湯加川?辛夷慢性の鼻炎症状があって,項背のこわばりを自覚する症例によい.報告:副鼻腔・気管支症候群20例に対して葛根湯加川?辛夷を投与したところ,咳,痰,呼吸困難,鼻閉,鼻汁,後鼻漏,治療薬の変化より著効5 例,有効9例,やや有効5例,無効1例であった7).2)柴サイ胡コ桂ケイ枝シ湯トウ腹診にて腹力中等度,胸脇苦満,腹直筋の緊張を認め,自然発汗傾向がある.脈候,浮弦弱.著者が使用することが多い.3)荊ケイ芥ガイ連レン翹ギョウ湯トウ腹力中等度.扁桃炎,中耳炎など首から上の慢性炎症を繰り返しやすい人の慢性副鼻腔炎によい.一般に皮膚の色が浅黒く,手足に汗をかきやすい.腹直筋緊張がある.即効性に乏しく,2カ月は投与して効果を評価したい.4)辛シン夷イ清セイ肺ハイ湯トウ鼻ポリープ,臭いがわからない患者に用いる.*:補遺文中,使用した漢方医学的用語を解説する.慢性咳嗽患者に対する漢方方剤を選択する際には,下記の点を検討する.証は漢方医学的診断という意味である.1 陽証と陰証漢方薬は病気の時期,全身状態により陽証と陰証に分けられる.鑑別のポイントは,顔色,活気,手足の冷えである.体格も参考にはなるが,それだけで決めることはできない.赤ら顔で肥満傾向があり,低酸素血症を認めない軽症例はまず陽証である.また顔色不良で,やせがみられ,手足を触ると冷たい例は陰証である.陽証は炎症を抑える治療を主とする時期,陰特徴主な漢方方剤太陽病かぜの初期 寒気 頭痛 項背のこわばり葛根湯 麻黄湯 小青竜湯少陽病往来寒熱 口苦 喉の乾燥柴胡桂枝湯 麦門冬湯 麻杏甘石湯陽明病便秘 腹満なし太陰病気虚(腎虚・脾虚) 八味地黄丸 苓甘姜味辛夏仁湯 補中益気湯少陰病顔色不良 倦怠感 冷え真武湯 四逆湯厥陰病赤ら顔 血圧低下茯苓四逆湯* 通脈四逆湯表六病期(六病位)と咳に関連した漢方方剤下線は煎じ薬.*:真武湯+人参湯にて代用可.