カレントテラピー 33-5 サンプル

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12 Current Therapy 2015 Vol.33 No.5436多変量解析の結果,HbA1cレベルが高くなるにしたがって脳梗塞と虚血性心疾患の発症リスクは直線的に上昇した.HbA1c 5.0%以下の群を基準にすると,脳梗塞のリスクはHbA1c 5.5~6. 4%および6.5%以上の群と糖尿病治療群で,虚血性心疾患発症のリスクはHbA1c 6.5%以上の群と糖尿病治療群で有意に高かった.一方,HbA1c レベルと出血性脳卒中との間には明らかな関連はなかった.この結果から,糖尿病は虚血性疾患(脳梗塞,虚血性心疾患)に共通の危険因子であり,特に脳梗塞の発症リスクは糖尿病に至らない比較的低いHbA1cレベルから上昇することが示唆される.3 脂質異常症高コレステロール血症,特にLDLコレステロール(LDL-C)高値は虚血性心疾患の確立した危険因子であるが,脳卒中発症との関連について報告した疫学研究の結果は必ずしも一致していない.近年,LDL -Cに加えてカイロミクロン,レムナント,VLDLといった動脈硬化惹起性のリポ蛋白を総合的に評価する指標としてnon-HDL コレステロール(non-HDL-C)(総コレステロールからHDL-Cを減じたもの)が注目され,LDL-Cよりも心血管疾患の発症予測能が優れているといわれている.そこで,1983年に久山町健診を受診した40歳以上の住民2,452名を24年間追跡した成績を用いて,non-HDL-Cレベルと心血管疾患発症との関連を病型別に検討した(表2)5).多変量解析の結果,non-HDL-Cレベルと虚血性心疾患発症との間には有意な正の関連がみられたが,脳梗塞および出血性脳卒中発症との間に明らかな関連を認めなかった.さらに,脳梗塞をタイプ別に分けて検討したところ,non-HDL-Cレベルの上昇とともにアテローム血栓性脳梗塞発症のリスクは有意に上昇し,ラクナ梗塞については有意ではないものの同様の傾向がみられた.逆に,non-HDL-Cレベルと心原性脳塞栓症発症との間には有意な負の関連が認められた.この負の関連の理由は明確ではないが,血清総コレステロールの低下によって心房細動の発症リスクが上昇するとの報告6)があることから,non-HDL-C低値は心房細動を介して塞栓症の発症に関与している可能性がある.以上をまとめると,non-HDL-C高値は粥状硬化性疾患(アテローム血栓性脳梗塞と虚血性心疾患)に共通の危険因子であったが,心原性脳塞栓症の発症にはnon-HDL-C低値が関連していた.non-HDL-Cが脳梗塞発症に及ぼす影響はそのタイプによって異なることから,脳梗塞全体でみるとnon-HDL-Cとの関連が明らかでなかったものと考えられる.Ⅵ おわりに久山町研究の成績によると,わが国の地域住民では高血圧管理の向上と喫煙率の低下によって脳卒中の罹患率は大きく減少したが,高血圧者の血圧管理はいまだ不十分である.また,肥満や糖代謝異常,脂質異常症といった代謝性危険因子の有病率が急速に増加しており,心血管疾患の重要な危険因子として台頭している.心血管疾患を今後さらに予防するうえで,高血圧,喫煙とともに急増する代謝性疾患を包括的に管理することが大きな課題になったといえよう.non-HDL-C(mg/dL)≦121 122~145 146~173 ≧174 傾向性(n=601) (n=620) (n=623) (n=608) p虚血性心疾患1.0 1.6(1.0-2.7) 1.8(1.1-3.0)* 2.0(1.2-3.2)* 0.01脳卒中1.0 0.8(0.6-1.2) 0.9(0.7-1.2) 1.1(0.8-1.5) 0.47脳梗塞1.0 0.8(0.6-1.2) 0.8(0.6-1.2) 1.1(0.7-1.5) 0.7アテローム血栓性脳梗塞1.0 1.4(0.6-3.1) 1.4(0.6-3.2) 2.3(1.0-5.2)* 0.04ラクナ梗塞1.0 1.0(0.5-1.9) 1.1(0.6-2.1) 1.6(0.9-3.0) 0.07心原性脳塞栓症1.0 0.5(0.3-1.0)* 0.5(0.3-0.9)* 0.3(0.1-0.6)* 0.002出血性脳卒中1.0 0.9(0.5-1.7) 1.1(0.6-1.9) 1.2(0.7-2.2) 0.43表2Non-HDL-Cの4分位レベル別にみた脳卒中・虚血性心疾患発症の相対危険(95%信頼区間)久山町住民2,452名,40歳以上,1983~2007年,多変量調整*:p<0.05 vs. 第1分位調整因子:年齢,性,収縮期血圧,糖尿病,BMI,心電図異常,喫煙,飲酒,運動〔参考文献5)より作成〕