カレントテラピー 33-5 サンプル

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8 Current Therapy 2015 Vol.33 No.5432Ⅰ はじめに世界の死因統計によれば,わが国の脳卒中死亡率は1950年代から1960年代にかけて世界で最も高かったが,1970年ごろより降圧治療の普及とともに減少し始め,1990年代には欧米先進諸国と肩を並べるまでになった.また,虚血性心疾患の死亡率も1970年代以降,緩やかに減少する傾向にある.しかし,心疾患,脳血管疾患は依然として日本人の死因のそれぞれ第2位と第4位を占めており,その予防と対策が重要であることに変わりはない.日本人の生活環境は戦後から現在までの70年間に大きく変貌し,食生活の欧米化,運動不足の蔓延,ストレスの多い職場など環境の変化は肥満,脂質異常症,糖尿病の増加など新たな健康問題を生じている.また,医療レベルの向上や生活環境の改善により国民全体の生命予後が改善した結果,高齢人口が急速に増加している.このような生活・社会環境の変化は,日本人における心血管疾患の疾病構造に変化をもたらし,その病態にも影響を与えていると考えられる.本稿では,福岡県久山町において50年以上にわたり継続されている疫学調査(久山町研究)の成績を用いて,地域住民における心血管疾患の罹患率とその危険因子の時代的変化を明らかにし,おもな危険因子が心血管疾患の発症に及ぼす影響について述べる.Ⅱ 久山町研究とは久山町研究は,久山町の住民を対象として1961年に創設された生活習慣病の前向き追跡研究である.久山町は福岡市の東に隣接する人口約8 , 400人の比較的小さな町で,その年齢分布,職業構成,栄養摂*1 九州大学大学院医学研究院環境医学*2 九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター准教授*3 九州大学大学院医学研究院環境医学教授動脈硬化の診断と治療の現況と展望―包括的戦略による動脈硬化性疾患制圧へむけた取り組み久山町研究から大石絵美*1・秦 淳*2・清原 裕*3過去半世紀にわたる久山町研究の成績によると,時代とともに降圧治療が普及し高血圧者の血圧レベルが低下したが,反対に肥満,糖代謝異常,脂質異常症といった代謝性疾患が急増した.これらの危険因子の変化を反映して脳卒中罹患率は1960年代から1970年代にかけて大きく減少したが,その後は減少の程度が鈍化した.一方,急性心筋梗塞罹患率には明らかな時代的変化がなかった.久山町研究の追跡調査の成績を用いておもな危険因子が心血管疾患発症に及ぼす影響を検討すると,血圧レベルの上昇に伴い脳卒中および虚血性心疾患の発症リスクは直線的に増加した.またHbA1c高値は脳梗塞と虚血性心疾患の,non-HDLコレステロール高値はアテローム血栓性脳梗塞と虚血性心疾患の有意な危険因子であった.日本人の心血管疾患発症をさらに予防するためには,厳格な高血圧管理に加え,急増する代謝性疾患を早期に発見・治療することが重要といえる.