カレントテラピー 33-5 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.5 85治療薬解説509て増強されたと考えられる(図3).一方,アジア人の高血圧患者においても,プラセボ群と比較し有意な降圧が得られ,脈圧も低下することが報告された14).日本人を含めアジア人は塩分の摂取量が多く,食塩感受性高血圧が多いとされている.そのため,NEPとRASを同時に阻害するARNiは,食塩感受性高血圧に対して非常に適した薬剤であると考えられる.心不全に対してもLCZ696の強い効果が期待されたが,心不全において上昇するナトリウム利尿ペプチドは,脂肪分解反応を亢進させる可能性が指摘されており,LCZ696によるナトリウム利尿ペプチドのさらなる上昇は,脂質の動員や脂肪酸化を亢進させる可能性が否定できない.したがって,心不全患者へのLCZ696投与は注意が必要であると喚起する記述が2011年に『Hypertension』誌に掲載された15).ところが実際には,LCZ696は心不全の著明な改善効果が相次いで報告されている.NYHA class Ⅱ~Ⅲ度を有する左室駆出率(ejection fraction:EF)が保たれた心不全患者300例を対象としたPARAMOUNT試験では,LCZ696投与が左室壁負荷を反映するN末端プロBNP(NT-proBNP)をバルサルタンと比較し有意に低下させた.また,投与36週後の時点ではバルサルタン投与群と比較して,LCZ696投与群では左房の径と容積がいずれも減少し,NYHA重症度分類が改善していた.しかし,この試験では,死亡を含む重篤な有害事象の発生率に両群間で差はなかった16).これに対してEFが40%未満の慢性心不全患者を対象とした前向き研究であるPARADIGM -HF試験では,LCZ696投与はエナラプリル投与群と比較して総死亡,心血管死,心不全による入院を減少させた17).これらの大規模臨床試験の結果を受け,LCZ696は欧米にて心不全治療薬として使用される予定となった.先にも述べたように,omapatrilatによりRASとNEPを阻害すると,強い腎保護効果が期待されていた.一方,現在までのところ,ARNiであるLCZ696による腎保護効果についてのエビデンスは非常に限られている.心不全に対する大規模臨床試験においては,投与前のアルブミン尿が非常に軽度な場合,LCZ696の抗アルブミン尿効果はバルサルタンに対して優位性を示さなかった12),16).これに対して小規模の臨床研究ではあるが,推算糸球体濾過量(estimate glomerularfiltration rate:eGFR)の低下を示す日本人慢性腎臓病合併高血圧患者における検討において,LCZ696は顕著なアルブミン尿を示す症例で,非常に強い抗アルブミン尿効果を生じた.しかも,高カリウム血症や腎機能低下などの合併症は観察されなかった18).eGFRの減少に対しては,LCZ696がバルサルタンよりも抑制傾向がみられたという報告もあり16),腎機能の低下した症例においては,LCZ696がより強く腎保護を示す可能性も考えられる.現在行われているUKHARP-Ⅲ(The UK Heart And Renal ProtectionⅢ)試験では,顕性蛋白尿を呈するeGFR低下症例に対し,腎ARBの作用によるRAS阻害血管収縮体液貯留血管リモデリング線維化傷害などを抑制するNEP阻害作用によるナトリウム利尿ペプチドの分解抑制血管拡張ナトリウム利尿レニン分泌抑制アルドステロン分泌抑制線維化抑制などを生じる図3LCZ696によるナトリウム利尿ペプチドとRASの関係