カレントテラピー 33-5 サンプル

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84 Current Therapy 2015 Vol.33 No.5508が考えられている.Omapatrilatは結果的に臨床応用されなかったが,ACE阻害薬よりも優れた腎保護効果が指摘されていた.例えば,健常人に対してomapatrilatは,ACE阻害薬であるfoshinoprilとサイアザイド利尿薬との併用と比較して,有意な腎血流の増加を認めた9).一方,高血圧ラットにおけるマイクロパンクチャー法による検討では,omapatrilatは血圧の低下のため腎血流の増加は認めなかったものの,糸球体輸入細動脈・輸出細動脈の両方を拡張して,糸球体内圧を低下させることが示唆された10).実際に心不全患者に投与した場合,腎機能の悪化を生じる割合がomapatrilat投与群でリシノプリル投与群よりも有意に低かったという報告もある11).このように,omapatrilatによりRASとNEPを同時に阻害することは,腎保護の観点からも重要である可能性が指摘されていたが,臨床応用の中止に伴い,以後の検討は進んでいない.Ⅳ LCZ696これに対して最近,ARBとNEP阻害作用を併せもつ薬剤として,ARNiであるLCZ 696が開発された(図1).LCZ696はARBであるバルサルタンの分子構造に,NEP阻害薬のプロドラッグであるAHU377(これがLBQ 657に代謝されて薬理作用を発揮する)を組み入れた初めてのARNiである(図2).ここで重要なことは,ARBはACE阻害薬と比較してブラジキニン上昇作用が少ないため,ARNiであるLCZ696はバソペプチダーゼ阻害薬のような血管浮腫や咳などの副作用が生じにくい点が期待されて開発されたことである3).実際,バルサルタンとの無作為化比較対照試験では,約1,300人の患者に対する降圧効果を8週間にわたって観察されたが,予想されたとおりバソペプチダーゼ阻害薬のような血管浮腫や咳などの目立った副作用は認めなかった12).この大規模臨床試験では,軽度から中等度の本態性高血圧患者において,LCZ 696は同量のバルサルタンよりも強い降圧効果を示した.また,同試験では400人程度の患者は24時間自由行動下血圧の測定を行ったが,バルサルタンと比較してLCZ696は24時間収縮期と拡張期のいずれも低下させ,その作用は夜間でも観察されたことから,持続した降圧作用が示された.さらに,脈圧の低下もLCZ696のほうが大きかったことから,LCZ696には硬化した血管の弾性を改善する作用があるのではないかと示唆されている12).同様に,動物実験においてもLCZ696による強い血管リモデリングの抑制効果が証明されている13).このように,LCZ696投与下では,ARBであるバルサルタンによる降圧と血管保護効果が,NEP阻害によっアンジオテンシノーゲンアンジオテンシンIアンジオテンシンⅡAT1受容体ACEレニンACE阻害薬ナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP, CNP)AHU377構造NEP(ネプリライシン)バルサルタン(ARB)構造代謝物ブラジキニンアミノペプチダーゼPLCZ696(ARNi)代謝物ACEACE阻害薬LBQ657(NEP阻害作用)図2LCZ696の作用部位