カレントテラピー 33-5 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.5 83507開発された3).本稿では,LCZ696の作用機序などについて概説する.Ⅱ NEP阻害作用薬とはNEPはナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP, CNP)やブラジキニン,アドレノメデュリン,エンケファリン,サブスタンスP等のペプチドを分解するZn蛋白酵素として知られている.そのため,NEPを阻害する薬剤は,体内のこれらペプチドを増加させて強力な利尿や血管拡張作用を生じて降圧作用を示す.加えて,細胞増殖や線維化の抑制によって臓器保護効果が得られることも期待されている.ところが,カンドキサトリルに代表されるNEP阻害薬は,アンジオテンシン分解酵素の抑制によるRASの活性化を生じることから,実際には十分な効果が得られなかった.そこで,RAS阻害薬とNEP阻害薬を併用することにより,NEP阻害薬の薬効が示されるのではないかと期待され,両者を阻害する薬剤の開発が進んだ経緯があるとされている4).Ⅲ バソペプチダーゼ阻害薬であるomapatrilatそこでRAS阻害作用とNEP阻害作用を併せもつ創薬が進み,最初に研究が進んだのが,NEPと同時にACEを阻害する作用を有するバソペプチダーゼ阻害薬であるomapatrilatであった(図1).多くの基礎研究,あるいは小規模な臨床検討によって,omapatrilatが従来のACE阻害薬よりも強い降圧作用を有することが示された5),6).それらのエビデンスにもとづいて実行された大規模臨床試験OCTAVE(the OmapatrilatCardiovascular Treatment vs. Enalapril)試験では,約25,000人を対象にACE阻害薬のエナラプリルとomapatrilatとの比較試験が行われ,omapatrilatが有意に強い血圧降下作用を示した7).また,OVERTURE(the Omapatrilat Versus Enalapril RandomizedTrial of Utility in Reducing Events)試験では,約5,800人のNew York Heart Association(NYHA)class Ⅱ~Ⅳ度の心不全患者に対してACE阻害薬のエナラプリルとomapatrilatのいずれかを投与し,2年以上フォローアップした8).その結果,omapatrilatが心血管イベントによる死亡,あるいは入院のリスクを9%有意に下げた(p=0.024).しかし,OCTAVE試験では血管浮腫が3倍もの高率(2.17%)で生じたため,降圧剤としてのomapatrilatの開発は中止となった.血管浮腫が生じた原因は完全には解明されていないが,NEP阻害によってブラジキニンの分解が阻害され,同様の作用がACE阻害によっても生じることから,これら二重の作用によりブラジキニンが異常に増加することで,血管の透過性が病的に亢進した可能性RASアンジオテンシノーゲンアンジオテンシンⅠアンジオテンシンⅡ+AT1受容体Na利尿ペプチド,ブラジキニンアドレノメデュリン,エンケファリンサブスタンスP等の代謝・分解ARNi(LCZ696)バソペプチダーゼ阻害薬(omapatrilat)AHU377(プロドラッグ)バルサルタン(ARB)LBQ657(NEP阻害作用)ACE阻害作用NEP阻害作用図1LCZ696とomapatrilatの作用機序の違い