カレントテラピー 33-4 サンプル page 27/32
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カレントテラピー 33-4 サンプル
86 Current Therapy 2015 Vol.33 No.4404睡眠を維持する生物時計と恒常性機能国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部部長 三島和夫睡眠と覚醒の制御には概日リズム(サーカディアンリズム)機構および恒常性維持機構が相補的に関与している.視床下部の視交叉上核(生物時計)の支配の下,24時間周期で時刻決定的に出現するという生物リズムの側面と,疲労に対する回復(休養)という恒常性維持の側面を併せ持っている.睡眠はその内部にレム-ノンレム睡眠サイクルという周期的な現象を包含している.睡眠前半にノンレム睡眠,特に徐波睡眠が集中する.一方,レム睡眠は入眠後に約90分周期で出現し,睡眠後半に向けて持続時間も密度も増大する.この際,ノンレム睡眠(特に徐波睡眠)は主に恒常性維持機構の,レム睡眠は概日リズム機構の支配を受ける.睡眠・覚醒を支えるさまざまな生理機能,例えばメラトニンや副腎皮質ホルモン分泌,体温(産熱と放熱),心拍や血圧,酵素活性などにみられる日内変動もまた生物時計により駆動されている.長年,ヒトの概日リズム周期(フリーラン周期;τ)は約25時間であるとされてきた.しかし,明暗や社会時刻の情報がない隔離環境下で特殊な手法を用いて精密に測定するとτはより24時間に近似し,人種間差や加齢変化もほとんどないことが明らかになった.欧州系米国人では24時間11分,われわれが測定した日本人では24時間10分であり,平均値も分散もほぼ同等であった.われわれは自然光などの同調因子を用いて生体リズム位相を24時間周期の昼夜サイクルに日々同調させることで社会活動リズムを保つとともに,睡眠とそれを支える生理機能リズム群との間の相互位相関係を適切に保っている.ところがヒトの睡眠時間帯(ノンレム睡眠時間帯)は人為的にシフトさせることが可能であるため,結果的により強固に生物時計に支配されている生理機能リズム群との間に位相の一過性のズレが生じることがある.このような現象は隔離環境下でも自然に生じることがあり(内的脱同調),睡眠構造や睡眠持続性が損なわれてしまう.現代生活ではジェット飛行や交代勤務(夜勤)などによって人為的な内的脱同調に陥ることが少なくない(社会的ジェットラグ).内的脱同調によって,不眠や眠気などの睡眠問題だけではなく,倦怠感,抑うつ,消化器症状などさまざまな心身の不調が生じ,生活の質(Quality of Life)は障害され,長期的には生活習慣病や悪性腫瘍の罹患率が高まることも明らかになっている.個人の概日リズム周期の長短(脆弱性)や生体リズム位相の後退を引き起こす夜間の人工照明によって夜型生活や社会的ジェットラグから抜け出せずにいる場合もある.これらの睡眠問題は24時間社会がまねいた現代病といえるだろう.睡眠-覚醒障害と関連疾患― その対策