カレントテラピー 33-4 サンプル page 11/32
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カレントテラピー 33-4 サンプル
Current Therapy 2015 Vol.33 No.4 51369Ⅰ はじめに睡眠障害国際分類(international classification ofsleep disorders:ICSD)が約10年ぶりに改訂され2014年に第3版(ICSD- 3)が発表された1).第2版(ICSD-2)では,精神疾患により生じる不眠症(insomnia dueto mental disorder)は精神生理性不眠,逆説性不眠,特発性不眠などの不眠症中核群と独立した下位診断項目に分類され,病態特異性が強調されていた2).しかしICSD-3では,不眠症下位分類の独立性を裏付ける病態特異性が不明瞭であることから精神疾患により生じる不眠症も慢性不眠障害の大分類に集約され,病態特異性の有無は診断上の重要性が低いと評価された.ICSD-2でも言及されていた,精神疾患により生じる不眠の病態特異性を明らかにする研究成果は不十分であり,臨床に還元可能なまでのエビデンスが構築されていないのが主たる理由である.これは他の不眠症下位分類においても同様であり,病態独立性を支持するエビデンスが少なく,かつ実臨床において各下位分類の典型症例が少なく複数の特徴を有する症例が多いという実感が専門家間で一致したことによる.不眠は,心理的ストレスの増大に伴って発症し,ストレスの遷延や不適切な睡眠衛生の維持により慢性化する.そして個人の性格特性と慢性不眠との強い関連性が指摘されている.これは多くの精神疾患の発症・遷延構造と共通点が多いことから,①慢性不眠症は精神疾患と共通のストレス脆弱性により生じる併存症と考えられる.他方で限られたサンプルから得られた知見ではあるが,特定の精神疾患には特徴的な不眠症状が指摘されており,睡眠ポリグラフ(polysomnography:PSG)による質的所見にも疾患特異性が示唆されていることから,②精神疾患固有の不眠病態の存在も支持されている.そして,先行する慢性不眠症による恒常性破綻の促進が精神*1 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部/神奈川県立精神医療センター*2 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部精神機能研究室長睡眠-覚醒障害と関連疾患― その対策精神疾患と不眠吉池卓也*1・栗山健一*2多くの精神疾患には睡眠障害が合併するが,なかでも不眠症の合併率はきわめて高い.他方で,精神疾患に合併する不眠症と,原発性不眠症との質的差異,病態への関連性は明らかにされていない.精神疾患発症に及ぼす慢性不眠の影響を明らかにし,慢性不眠が精神疾患発症の早期指標として役立てられるかどうかは精神疾患ごとに異なっていることが推測できる.慢性不眠は,ストレス障害や不安障害においては,共通のストレス因およびストレス脆弱性を基にした併存症としての性格が色濃いのに対し,気分障害では中核病態に密接に関連する特異性を有することが示唆される.さらに,先行する慢性不眠は,大うつ病の発症を促進し,早期生物学的指標としての有用性を有する可能性が示されている.