カレントテラピー　33-3　サンプル page 6/36

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カレントテラピー　33-3　サンプル

Current Therapy 2015 Vol.33 No.3 9227Ⅱ 心房細動の罹患人口―世界からの報告―表1に，年齢別にみたAF有病率に関する欧米の成績を示した．いずれの報告においても，男女とも加齢にしたがってAF有病率は上昇し，男性により多いことが示されている．おおむね，総人口あたりで1％，70歳代で5％，80歳以上で10％という数値が報告されている．循環器疫学の金字塔ともいえるFramingham研究は，米国マサチューセッツ州，ボストン近郊にある緑に包まれた人口3万人弱の小さな町，フラミンガムで行われた地域ベースの疫学研究である．急増する心血管疾患の原因究明を目的とし，壮大な国家プロジェクトとして第二次大戦直後の1948年に開始され，いまなお脈々と継続されている偉大な研究である．試験開始時の対象となったオリジナルコホート（心血管疾患の既往のない30～62歳の男女6,507人が住民台帳から無作為に抽出され，そのなかから試験参加要請に応じた住民5,209人が登録された）に加え，その子どもや配偶者を対象としたoffspring study，そして2000年代に入ってからは孫の世代である第三世代スタディの参加登録が開始されている．フラミンガムは，サービス業と製造業が中心の小さな自給自足の町で，イタリア系やアイルランド系の白人が住民の大半を占める．住民の年齢構成，社会習慣，食習慣などの面から，米国のごく一般的な郊外の町であり，多くは代々住み続けて人口の移動が比較的少ない地域とされている．1991年の論文1）では，オリジナルコホート5,070人の34年にわたる追跡調査のデータから，AF有病率は70歳代で4.8％，80歳以上で8.8％と報告された．あらゆる場面で引用されることの多いFramingham研究の有病率データは，現在とは時代も医療環境も大きく異なる，戦後まもない米国人のデータであることに注意が必要であろう．Cardiovascular Health Study2）は，米国のメディケアのデータから年齢65歳以上の男女を無作為に抽出して調査したもので，厳密な意味では一般住民を対象にした調査ではない．AF有病率は70歳代で5.8％，80歳以上で7.3％と報告されている．メディケアは，米国の高齢者・障害者を対象とした保険制度である．富裕層や雇用者は給付の手厚い民間医療保険に加入し，低所得層は連邦政府と州政府の出資するメディケイドに加入している．無保険の国民も多数存在することが社会問題化している米国においては，メディケア加入者のデータという時点で，すでに選択バイアスが入っていることに注意すべきである．英国の報告3）は，イングランドとウェールズの総合診療医（general practitioner：GP）に登録された140万人の患者データベースをもとに，1998年のAF表1　心房細動有病率（欧米の成績）FraminghamStudyCardiovascular Health Study UK database ATRIA Study報告年（文献） 19911） 1994 2） 20013） 20014）対象5,070人5,201人140万人189万人年齢（歳） 全体男性女性全体男性女性全体男性女性全体40～440.10.3 0.2 0.245～490.7 0.4 0.550～540.555～591.8 1.1 1.40.9 0.4 0.660～641.81.7 1.0 1.465～69 5.9 2.8 4.04.6 3.3 3.93.0 1.7 2.570～744.85.8 5.9 5.8 5.0 3.4 4.375～79 5.8 5.9 5.8 9.1＊ 7.2＊ 7.9＊ 7.3 5.0 6.3≧80 8.8 8.0 6.7 7.3 10.6＊＊ 10.9＊＊ 10.8＊＊ 10.6 8.0 9.3表中の数字は％．＊：75～84歳，＊＊：85歳以上．〔日本循環器学会：『心房細動治療（薬物）ガイドライン（2013年改訂版）』より引用一部改変〕