カレントテラピー 33-12 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.12 71149慢性心不全の診断と治療― 最近の動向―企画名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科教授室原豊明パンデミックという言葉は,通常は感染症などの大流行のことを指す言葉であるが,かつてValentin Fuster教授は,米国心臓病学会で「慢性心不全は今やパンデミックである」という表現をされた.人口の高齢化や高血圧,糖尿病,脂質代謝異常など生活習慣の欧米化を背景とした冠動脈疾患の増加などにより,まさに慢性心不全は近年増加の一途をたどっている.また,慢性心不全患者は年余にわたる緻密な治療が必要であること,再入院を繰り返す患者が多いこと,近年の治療の高度化・多様化により,医療コストの増大にもつながることから,大きな社会的問題にもなってきている.超高齢社会を迎えているわが国こそ,激増する慢性心不全患者の生活の質(QOL)や予後の改善を目指して,エビデンスに基づく有効かつcost -effectiveな治療を実践することが求められている.近年の大規模な介入型,また観察型の臨床研究により,心不全の薬物療法はかなり確立されてきた.さらに心不全と合併しやすい各種病態,例えば心房細動や高血圧,糖尿病などの治療法に関しても,新しい手法や予防薬などが多く取り入れられるようになった.さらに心不全の原因そのものである弁膜症に対しても,経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valvereplacement:TAVR)などの低侵襲治療が導入されつつある.その反面,実臨床(real world)では,低血圧,高度腎・肝機能障害,血管や弁の石灰化,悪性疾患,超高齢者,認知症,独居(その他社会的背景)などが多様に合併している場合が多く,必ずしもエビデンスやガイドライン通りに治療ができる訳ではない.患者や家族にとって,今なにが最適な医療なのかを改めて一人ひとりの患者で個別に検討することも重要であろう.今回カレントテラピー誌のゲスト編集の機会をいただいた.心不全に関する内容ということだったので,「慢性心不全の診断と治療─最近の動向─」というタイトルで編集をさせていただいた.各項目の原稿は,それぞれの分野で第一線の活躍をされておられる先生方に,お忙しいなか無理を言ってお願いした.その結果本書は,現時点での多様な心不全の病態と治療にかなり迫れる内容になっている.本書が広く循環器を学ぶ先生方にとって,診療や研究,さらにup-to-dateな知識の整理に役立つことを願っている.エディトリアル