カレントテラピー　33-12　サンプル page 18/40

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カレントテラピー　33-12　サンプル

Current Therapy 2015 Vol.33 No.12 731215Ⅰ はじめに左心不全では肺循環系の圧上昇により，運動時息切れ，発作性呼吸困難，起座呼吸，心臓喘息などがみられる．右心不全では静脈圧上昇により，浮腫，腹水などのうっ血により，食欲不振，嘔気，嘔吐，腹部膨満感などを呈する．また，うっ血性心不全病態では両心不全に原因がある．一般に，慢性心不全の治療戦略は，①心臓負荷（前負荷，後負荷）の軽減，②心筋保護，③水分，塩分の制限，および管理である．その第一選択の漢方薬は，木モク防ボウ已イ湯トウ・五ゴ苓レイ散サンで漢方医学でいう「水スイ毒ドク」を改善をする1），2）．「水毒」とは，西洋医学の「浮腫」とは同義語ではない．東洋医学でいう「水スイ」の循環不全を意味し，「水」の過量，もしくは不足の両方で発生する病態を意味する．つまり，浮腫だけではなく，脱水状態も含み，尿量減少，もしくは過量，めまい，ふらつき，胃腸障害などのさまざまな臨床症状を指す．したがって，「水毒」を改善する漢方薬は「利水剤」といわれ，浮腫の改善だけではなく，めまいや胃腸障害，尿量の調整などにも薬効を表す．この作用は，心循環器病態の改善・回復に関連する．五苓散は強力な利水効果を表し，木防已湯は併せて重度の喘息などの呼吸器疾患や慢性心不全などの循環器疾患に適用される3）．Ⅱ 木防已湯，防已，シノメニン木防已湯は，防ボウ已イ，桂ケイ枝シ，人ニン参ジン，石セッ膏コウの生薬から構成されており4），主（君クン）薬は防已である．多種の構成生薬を含有する漢方薬の効果発現は，主要な天然素材（植物）由来の単一生理学的機能物質フィトケミカルの基礎薬理学的エビデンスに基づいている．＊ 四天王寺大学教育学部教育学科保健教育教授慢性心不全の診断と治療─ 最近の動向慢性心不全に対する代替療法─ 漢方薬による伝統的医療─佐藤廣康＊循環器疾患適用の漢方処方薬は木モク防ボウ已イ 湯トウ，五ゴ 苓レイ散サン，炙シャ甘カン草ゾウ湯トウ，抑ヨク肝カン散サンなどである．慢性心不全では強心作用，利尿作用，前・後負荷軽減作用などが要求される．木防已湯はCa2＋電流を増加し強心作用を表す．五苓散はアクアポリン受容体を介して強い利尿作用を示す．生薬防ボウ已イ ，シノメニンも心筋膜イオンチャネルに著明な生理薬理作用を示した．併せて，血管内皮依存性と血管平滑筋性の血管弛緩作用を表した．木防已湯，防已とシノメニン単独の血管弛緩作用に対する加齢変化を比較すると，シノメニンは加齢依存性に弛緩作用が減弱するが，防已，木防已湯は作用を保持した．木防已湯を構成する生薬と含有する多数のフィトケミカルによる薬理学的相互作用により，多成分複合剤は加齢変化を受けにくくなると推測された．本稿では，直接，心血管作用をもつ木防已湯を代替・補完医療としてまとめた．