カレントテラピー 33-11 サンプル page 6/32
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カレントテラピー 33-11 サンプル
Current Therapy 2015 Vol.33 No.11 91059Ⅱ miRNAとがんmiRNAは1993年に線虫で発見されて以来6),ウイルス,植物,そしてわれわれヒトを含む動物まで存在が確認されており,ヒトにおいては2,588種類ものmiRNAが報告されている(miRbase Release 21).数にすればタンパク質に翻訳される遺伝子の1/10程度であるが,1種類のmiRNAで数百種類ものmRNAの発現を制御すると考えられているため,個体の発生から,細胞の分化,増殖や生体の恒常性維持に関与する7).そして,miRNAの発現異常が引き起こす遺伝子発現異常は細胞におけるさまざまな恒常性の破綻を引き起こし,がんを含む多くの疾患に繋がる7).がんにおいて,miRNAの発現異常が認められたのは,miRNA研究が始まった早い段階であった.この事実を明らかとした契機のひとつは,マイクロアレイなどを用いたmiRNAの発現プロファイルが得られるようになったことである.2004年,LiuらはmiRNAのマイクロアレイ解析の開発に成功し,ヒト成人由来の正常各組織と胎児肝臓,脳における161種類のmiRNAの網羅的発現解析の結果を報告した8).その結果は,各組織によってmiRNAは異なる発現プロファイルであり,同様の組織でも成人と胎児では発現プロファイルが異なることを示した.さらに彼らはマイクロアレイを利用しB細胞慢性リンパ性白血病(chroniclymphocytic leukemia:CLL)患者由来のB細胞と健常人の扁桃腺由来のCD5陽性B細胞,または末梢血由来の単球におけるmiRNAの発現を比較した9).その結果は,患者由来のB細胞では健常人のB細胞および単球とはそれぞれ55種類,29種類のmiRNA発現量に有意な差があることを示し,疾患において多くのmiRNAに発現異常が起こっていることを明らかにした.本論文はマイクロアレイによる発現プロファイルによって正常細胞とがん細胞を区別でき,予後との相関も示唆され,診断マーカーへの応用が示された最初の論文である.現在でも発現プロファイルを取得する際には多くの場面でマイクロアレイ解析が用いられている.さらに,がん細胞におけるmiRNAの発現異常が,他の方法を用いて確認されている.2005年,蛍光標識したビーズにmiRNAを結合させ,フローサイトメーターにてmiRNAの発現プロファイルを得る手法が開発された10).この手法はあまり普及しなかったが,この手法を用いてさまざまながん組織と正常組織における217種類のmiRNAの網羅的発現解析が行われ,miRNAの発現プロファイルは「がん」と「正常」組織の間で大きく異なることが示された.また,近年では次世代シークエンサーが発達し,miRNA-Sequenceによる発現プロファイルも得られている.Wittenらは29人の子宮頸癌患者の非癌部と癌部のmiRNA発現プロファイルをmiRNA-Sequenceを用いて取得,解析した11).その結果,67種類のmiRNAの発現が非癌部と癌部で異なることが確認された.さらに,当時は未知であった64種類のmiRNAを発見した.このように,miRNA -Sequenceは未知のmiRNAの発見やmiRNA中の変異を検出するのにはメリットがあるが,マイクロアレイ解析と比較してコストや時間を要し,また,解析に必要なRNA量が多くなることなどから,現時点では汎用性は低いと思われる.以上のように,がんにおけるmiRNAの発現異常が認められ,miRNAを診断マーカーとして利用する研究が多く行われてきた.Ⅲ 体液中miRNAの発見上述のとおり,miRNAの発現プロファイルを比較することで,がんを含む疾患に対する診断マーカーとしてのmiRNAの有用性を検証した報告は多数ある.しかし,腫瘍組織を採取できる状況でないと腫瘍組織内のmiRNA発現プロファイルもしくは特定のmiRNAの発現を確認することは困難である.そのような状況はすでに,がんが体内に存在することを疑って,組織生検を行うか,手術で腫瘍を摘出した時などである.組織生検の場合,病理切片による診断が可能であり,わざわざmiRNAの発現を解析する必要性は少ない.腫瘍摘出時は,診断マーカーとしては,すでに手遅れであり,仮に術中迅速診断が必要な場合でもmiRNAの発現を確認することはない.miRNA