カレントテラピー 33-10 サンプル

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88 Current Therapy 2015 Vol.33 No.101032孤発性パーキンソン病の疾患遺伝子探索と意義神戸大学大学院医学系研究科内科学講座神経内科助教 佐竹 渉パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)患者の大多数は孤発性に発症し,一部(5~10%程度)には何らかの家族歴のある患者が存在する.こういった疾患を,遺伝学的に“多遺伝性疾患(polygenic disease)”といい,複数の疾患遺伝子が関わり発症する.孤発性PDの遺伝背景を解明するため,一塩基多型を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われ,近年複数の孤発性リスク遺伝子が発見されている.筆者らは,国内11施設と共同で,患者DNA検体を収集,日本人の大規模GWASを行い,孤発性PDの発症に関わる4つの孤発性PDリスク遺伝子(BST1 , PARK16 , α-synuclein,LRRK2 )を発見した(Satake W, et al:NatureGenet, 2009).BST1 は,細胞内Ca2+貯蔵からCa2+放出を誘発するcADPリボース形成を触媒する.PARK16 遺伝子であるRAB7L1 は,PD遺伝子LRRK2 ・VPS35 とともにPDの細胞内輸送・レトロマー病態に関与することが報告された.このように,BST1 , PARK16 の発見は,Ca2+恒常性・細胞内輸送のPD病態への関与をハイライトした.また,α-synuclein ,LRRK2 は,そもそも家族性PD遺伝子として知られていたが,その多型により孤発性の発症リスクになることが示され,孤発性PD の発症機序に,家族性PD 遺伝子が密に関係していることが明示された.これら4因子は,孤発性PDへの関与が白人研究でも繰り返し再現されており,人種を超えた確実な孤発性PD遺伝子であるといえる.一方で,まれな多型(rarevariant)として,ゴーシェ病遺伝子GBA のヘテロ変異がある.この変異を2アレルもつとゴーシェ病を発症するが,1アレルではPDの強いリスクとなることが,2004年にイスラエルのグループから発見された(Aharon-Peretz J,et al:N Engl J Med, 2004).彼らの発見は,日本人でも再現され(Mitsui J, et al:ArchNeurol, 2009),さらに大規模国際共同研究でも証明された(Sidransky E, et al:N Engl JMed, 2009).このように,ひとことに疾患遺伝子といってもその発症リスクの強弱や頻度は多様であり,①非常にまれながら非常に強い疾患変異(この場合単一遺伝性の家族性疾患となる)もあれば,②疾患リスクとしては弱いが大多数の患者に関係するもの(リスク遺伝子)もあり,③その中間のもの(rare variant)も存在する.これらによりPDの遺伝背景がつくられているわけである.PDの遺伝背景の解明は,疾患分子病態の解明,発症リスクの予測や,個々人の分子病態にあわせた個別化医療開発につながりうる.臨床・基礎両面への大きな波及効果が期待され,人類が解明すべきテーマである.いまだ未開である本症の遺伝背景のさらなる解明には,従来GWASよりさらに拡大したGWAS,複数GWASをあわせて解析する「メタGWAS」,さらには進展著しい次世代シークエンサーの塩基解読能を応用した,全エクソン配列(エクソーム)解読による「エクソーム関連解析」が有効であり,さらなる疾患理解と新たな治療法開発の糸口となることを願って,欧米施設や筆者らをはじめ,盛んに行われている.パーキンソン病の治療─ 変貌する概念と治療戦略