カレントテラピー 33-1 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.1 11SGLT2阻害薬の開発11尿細管からの糖再吸収を担っている.腎臓の糸球体で濾過されたグルコースは近位尿細管で完全に再吸収されるが,このグルコース再吸収は,近位尿細管の前半部の近位曲尿細管にある低親和性で高容量の取り込み機構と,近位尿細管の後半部の近位直尿細管にある高親和性で低容量の取り込み機構によって担われている3()図1B).前者により糸球体で濾過されたグルコースの約90%が,残りの約10%が後者によって再吸収される.前述のように,尿細管腔内液のグルコースが血管側へ再吸収されるためには,尿細管を裏打ちする尿細管上皮細胞を通過することになるが,この管腔膜にSGLTが存在する(図1A).近位曲尿細管にSGLT2があり,近位直尿細管にはSGLT1がある.これに対して,小腸上皮はSGLT1によってグルコースの吸収を行っている.SGLT1は,グルコースとガラクトースを輸送し,小腸からのグルコース,ガラクトースの再吸収を担っているため,SGLT1の遺伝子変異はグルコース/ガラクトース吸収不全症となり,重篤な下痢を発症する8).グルコース/ガラクトース吸収不全症では,通常軽度の腎性糖尿も伴うが,これはSGLT1が近位直尿細管に存在し,腎でのグルコース再吸収にも寄与していることと一致する事実である.SGLT2は,グルコースのみを取り込み,腎近位曲尿細管に存在する.また,SGLT2は,糸球体で濾過されたグルコースの90%の再吸収を担うが,これはSGLT2の発現が非常に高いことと,糸球体から繋がる近位曲尿細管にあり,最大限にグルコースを取り込める位置に存在していることによる.近位直尿細管のSGLT1は,SGLT2が取りこぼしたグルコース(糸球体で濾過された量の約10%に相当)の取り込みを担うものであり,正常血糖ではその一部が働くことでグルコースを完全に再吸収しており,後述のように大きな予備能を残している9).SGLT2の遺伝子変異は,家族性腎性糖尿として知られる10).家族性腎性糖尿においては尿糖陽性以外に際立った臨床所見がないことは,SGLT2を阻害しても大きな副作用を生じないであろうことを示唆し,SGLT2阻害薬開発の初期において開発を後押しすることとなった.Ⅳ Na+共役がもたらすSGLT1とSGLT2の機能の違いグルコース再吸収においては,管腔膜のSGLTがグルコース再吸収の原動力となっているが,これはSGLTがグルコースの輸送をNa+の輸送と共役させ,Na+の細胞外から細胞内へ向かう勾配を利用して,グルコースを濃度勾配に逆らって取り込んでいるためである2).Na+の細胞内濃度は細胞外濃度より低く,また細胞外に対して細胞内は電位が負になるため,正電荷をもつNa+は,濃度的にも電気的にも細胞の外から内に向かう強い勾配をもっている.SGLTは,Na+と共役することで駆動されるため,当然1個のNa+と共役するよりも,2個のNa+と共役するほうが大きな駆動力を得ることになる11).また,SGLT2は1個のNa+と共役することにより,生理的条件下では,約140倍の細胞内外のグルコースの濃度差に逆らってグルコースを取り込めるパワーを得ている7).これに対して,SGLT1は2個のNa+に駆動されることにより140×140(=~20,000)倍のグルコースの濃度差に逆らってグルコースを取り込むことができる7).これは逆に,細胞内に対して細胞外が1/20,000程度の低い濃度のグルコースであっても取り込むことができることを意味する.このようなSGLT1が,管腔内のグルコース濃度が低くなる近位直尿細管の管腔膜に存在しており,大きな濃度差に逆らって管腔内から上皮細胞内にグルコースを取り込んでいる(図1A).尿中にグルコースが漏れ出てこないのは,SGLT1が強いパワーをもつことによる.以上のように,SGLT2は1個のNa+と共役するため,2個のNa+と共役するSGLT1と比べてパワーは小さいが,グルコースの取り込みに伴うエネルギー消費は少ない7).SGLTによってグルコースとともに取り込まれたNa+は,Na+ポンプがエネルギーを消費して細胞外へ汲み出さないとならないが,SGLT2は1個のNa+と共役するため,1個のグルコースの取り込みに伴い流入するNa+がSGLT1よりも少なく,結果として少ないエネルギー消費でグルコースを取り込めることとなる.腎尿細管は,経済性に優れた輸送体であるSGLT2