カレントテラピー 33-1 サンプル page 31/34
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カレントテラピー 33-1 サンプル
72 Current Therapy 2015 Vol.33 No.172糖質制限北里大学北里研究所病院糖尿病センター長 山田 悟SGLT2阻害薬のことを「糖質を尿に捨てることでグルコースの出納バランスを調整する」治療法ととらえるとすると,糖質制限食は「糖質の摂取を控えることでグルコースの出納バランスを調整する」治療法ということができよう.よって,糖質制限食の効果にはSGLT2阻害薬の効果と類似する点が多く,SGLT2阻害薬と同様に,糖質制限食でも血糖のみならず,体重,脂質,血圧の改善効果が示されている.ただし,グルコースの出納バランスへの効果の大きさという点で考えると若干の相違があるかもしれない.一般には糖質制限食では1日130g程度の糖質摂取となることが多い.日本人の1日糖質摂取量は260~300g程度であるので,そこからSGLT2阻害薬で100g程度の尿糖を排泄させる(身体が利用できる糖質量は160~200gとなると予想される)よりも糖質制限食のほうがグルコースの出納バランスという点では効果が大きいと思われる.さらなる相違点としては,糖質制限食では,①エネルギーの出納バランスが必ずしも負にならない,②尿量が増えない(脱水・血液濃縮が生じない),③尿糖が増えない(尿路・性器感染症が増えない),④アレルギー反応が生じない(皮疹等が生じない),という点が挙げられる.②~④は副作用であるので糖質制限食にとって問題となる相違ではないが,①エネルギー出納バランスについては考慮を要する.一般には糖質制限の指導をするだけでも(エネルギー無制限の指導であっても)体重減量効果を期待することができるが,肥満患者の体重減量効果はSGLT2阻害薬のほうが大きいかもしれない.逆に,やせている患者へのSGLT2阻害薬の投与はやせを増悪させる可能性があるが,糖質制限食ではエネルギー摂取を増やさせることが可能なので,やせの増悪を予防しやすいはずである.なお,糖質制限食を指導した患者にSGLT2阻害薬を投与することで相乗効果を期待する先生も一部におられるようであるが,極端な糖質制限食をしている患者にSGLT2阻害薬が投与され,さらに既存の治療薬がすべて中止されたことによってケトアシドーシスを発症したという症例が報告されており,現時点では(緩やかであっても)糖質制限食実施中の患者にSGLT2阻害薬を投与することは避けておいたほうが安全であろう.SGLT2阻害薬― 摩訶不思議な糖尿病治療薬