カレントテラピー 32-9 サンプル

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30 Current Therapy 2014 Vol.32 No.9862して算出結果を日本人集団だけで見ると,久山町と吹田の差はエンドポイントに脳卒中が入っているかどうかの違い,吹田とNIPPON DATA80は冠動脈疾患の発症と死亡の違いが大きく関与していると考えられる.場所やベースライン調査の年代による影響はあるものの,それぞれの差はほぼ理解できる範囲と考えられる.一方,Pooled Risk equationsを用いると,ハイリスク者(Aさん)の場合は久山町スコアでの予測と近い値を示し,低リスク者(Bさん)では久山町スコアのリスクが高かった.両者のエンドポイントの差は,ほぼ冠血行再建術の有無だけなので久山町のほうが高く出やすいのは確かであるが,今まで欧米のスコアを日本人に適用するとほとんど過大評価となった事実とは異なっている.大きな理由として今回のPooled Risk equationsでは脳卒中がエンドポイントに入った点が挙げられる.日本人の脳卒中リスクは欧米よりも高いため,これをエンドポイントに加えると当然,絶対リスクは高くなる.ところが日本人と欧米人では脳卒中と冠動脈疾患の比率が全く異なる.つまりPooled Riskequationsと久山町スコアで同じ20%と判定されたとしても,前者は2 / 3以上が冠動脈疾患,後者は逆に2 / 3以上が脳卒中ということになる.残念ながら両方とも脳卒中と冠動脈疾患を分けて算出することはできない.もちろんいずれも重要なASCVDでありあえて分ける必要はないという考え方もあるが,日本人の脂質管理を考える際にはひとつの問題点がある.すなわち日本人の場合,高コレステロール血症と脳卒中,脳梗塞の関連がきわめて弱いということである10).これは脳梗塞の病型の違い(日本人ではアテローム血栓性梗塞が少ない)が関与している.そして高コレステロール血症と脳梗塞の関連が弱いうえに冠動脈性心疾患が少ないため,日本人で冠動脈疾患と脳卒中をひとつのエンドポイントにすると高コレステロール血症のリスクがほとんど描出されなくなる.例えば前述の久山町スコアでの高LDL-C血症の発症リスクへの影響は小さく,リスク区分も1段階しかない(LDL-C 140 mg/dL以上か未満か).脳・心血管疾患をトータルに見るという考え方は費用対効果からは有用であるが,わが国で冠動脈疾患発症率があまり増加していない理由のひとつとして,かなり前から積極的に脂質の管理を推進してきたこともあると考えられる.そのため冠動脈疾患の発症率が低いという日本人の長所を維持するためには今後もきめ細かい脂質管理が必要であり,そのためには冠動脈疾患にターゲットを絞った脂質管理の指針のほうが有用と考える.Ⅵ おわりに現行の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』は,わが国の動脈硬化性疾患の一次予防のための治療指針として,日本人の代表集団(全国から層化無作為抽出)のコホートであるNIPPON DATA 80から作成された絶対リスクを用いている.これはわが国の動脈硬化性疾患の実態に合致していると考えられ,必要な人に適切な治療の導入を図ると同時に,不必要な薬物治療の低減にもつながると期待されている.しかしながらベースライン調査時期が古いことや予測に用いるパラメーターが少ないこと,冠動A. 240万人B. 220万人C. 820万人A 二次予防(LDL-C<100)B 糖尿病(70LDL-C<100)C リスク評価の相違図2 ACC/AHAガイドライン2013の導入で増加が見込まれる全米のスタチン適用者数40~75歳の米国人は1億1,540万人であり,上記A~Cの合計1,280万人によってスタチン適用者は4,320万人(37.4%)から5,600万人(48.5%)に増加すると試算.〔参考文献5)より作図〕