カレントテラピー 32-9 サンプル

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26 Current Therapy 2014 Vol.32 No.9858Ⅰ はじめに1991年に英国の著名な疫学者であるジェフリー・ローズは「治療方針の決定は絶対リスクに基づいて行われるべきであり,相対リスクは研究者のためのものである」と述べている1).相対リスクは,10万人に1人の発症頻度が5人に増えても,10人に1人の発症頻度が5人に増えても同じように5.0である.しかし絶対リスクでは,前者は0.00005%,後者は50%の増加となり,現実のリスクという点では後者のほうがはるかに大きい.これ以降,欧米の診療ガイドラインでは絶対リスクの概念を取り入れて,それに基づいて患者の治療指針を決定してきた.絶対リスクの評価法として,米国ではFraminghamスコア2)と欧州ではSCORE(Systematic CoronaryRisk Evaluation)3)が使われてきたが,2013年に米国で公表されたACC/AHAガイドラインではFraminghamスコアに代わりNew Pooled Cohort ASCVDRisk equations4)が用いられている.以下その概要と今までのスコアとの差異,日本人集団での絶対リスクの考え方について述べる.Ⅱ Framinghamスコア(米国)とSCORE(欧州)ある集団で動脈硬化性疾患の危険因子レベルに応じた絶対リスクを算出するためには,当該集団を代表するコホート研究が必要である.さらに絶対リスクの結果を治療に反映させるためには,因果関係だけでなく,治療効果についても検証されている必要がある.例えば高血圧,高コレステロール血症,糖ACC/AHAガイドラインにおける絶対リスク評価の考え方岡村智教*1・杉山大典*2ACC/AHAガイドラインではNew Pooled Cohort ASCVD Risk equationsが絶対リスク評価に用いられるようになった.これはFramingham研究を含む米国の5つの地域住民のコホート研究を統合して作成された.このモデルでは,従来の冠動脈疾患(冠動脈疾患死亡,非致死的心筋梗塞)だけでなく,致死的および非致死的脳卒中もエンドポイントに加えて10年間の発症リスクを予測する.予測に用いる指標としては性別,人種,年齢,収縮期血圧(治療中と非治療中),総コレステロール,HDLコレステロール,喫煙,糖尿病である.しかしながら,脳・心血管疾患の疾病構造が異なるため日本人にこのモデルを適用することはできない.現在,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』では,日本人の代表集団のコホート研究であるNIPPON DATA80のリスクチャートを用いて絶対リスクの評価を行っている.今後,時代の変化とともに日本人にとってより予測能の高いリスク評価手法について検討を進めていく必要がある.*1 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室教授*2 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室講師脂質異常症の診断と治療の動向― ACC/AHAガイドラインを考慮して