カレントテラピー 32-8 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.8 71心肺停止785論保留」である10).またRCTで観察された,統計的に有意ではないが,どちらかというと投与群に有利な方向性を示す差は,有害性を示した観察研究の結果と一貫性があるとは言い難い.もちろん,有意ではない差は,投与の有効性を示唆する観察研究と一貫性があるとも主張できない.現状では異なる研究結果が混在しており,心肺蘇生におけるアドレナリンを含む血管収縮薬の効果に関するエビデンスを確立するために,以下のような点を明らかにしていく努力が必要だろう.まず,これまでに行われた観察研究のデータを,リスクセット・マッチングを用いて分析し直してみるべきである.従来の自己心拍再開のタイミングを考慮しない分析方法では,選択バイアスが十分に除去されていない可能性が高いからである.また,今後行う観察研究においては,病院における治療内容も含め,交絡因子となり得る変数を可能な限り記録し,分析に含めるべきである.蘇生後の治療が予後に影響するであろうし,病院内でアドレナリンを投与する場合には,病院前の投与と合わせて効果を評価する必要がある.病院前のデータのみ使用した分析では,アドレナリンの薬理効果ではなく,救急救命士が病院前投与を行うという治療戦略を評価することになる8),10).心肺停止患者に対するアドレナリン投与の是非について明確な結論を下すためには,困難が予想されるが,大規模なRCTによる効果の確認が必要であろう.これまでに実施されたRCTでは,サンプルサイズ不足のために明確な結論を導けなかった可能性が高く,十分なサンプルサイズを確保することが重要である.ただし,長期予後改善効果があればすべての症例に投与し,効果がなければ投与をやめるという単純な二者択一の結論を導くことはできないかもしれない.例えば,VF/VT症例へのアドレナリン投与は神経機能予後不良の生存を増加させる可能性があり8),RCTでも同様の結果が出るなら,VF/VT症例に対して生存を重視して投与するべきか,あるいは投与対象はnon -VF/VT症例に限定すべきかを広く議論することも必要となるだろう.アドレナリンに長期予後改善効果があるならば,その至適投与量を決めることも必要となる.投与量増加により血管収縮作用も増強することから,アドレナリンの高用量と標準量(1mg)を比較するRCTが少なからず行われているが(標準治療との比較は偽薬との比較よりも倫理的問題が相対的に小さい),長期予後改善効果について明確な結果は示されていない9),17).高用量投与による強い血管収縮は冠動脈灌流圧上昇に有利であっても,同時に心筋や脳の虚血を増悪させるかもしれない17).逆に,低用量(0.5mg)投与が有害作用をより大きく低減させて,予後改善につながる可能性もある17).アドレナリンは心肺蘇生に最適な血管収縮薬なのか,という点についても検証の必要がある.アドレナリンのα作用による末梢血管の収縮と冠動脈灌流圧上昇が心拍再開を促進させると期待しているが,心筋の収縮力を増強して酸素需要を増加させるβ作用や,脳の微小循環や冠動脈の血流を減少させ得るα1作用ももっている17).動物実験ではこれらの作用が虚血を増悪させ,蘇生後の心機能低下18)や脳の微小循環の減少19)をきたすことが示唆されている.選択的α作用薬を含め,さまざまな血管収縮薬(メトキサミン,ノルアドレナリン,ドーパミン,フェニレフリン,バソプレシンなど)とアドレナリンとの比較が行われてきた.なかでもバソプレシンは有望な薬剤であり,ガイドラインにもアドレナリンの代わりに投与し得る薬剤として記載されている1).しかし,アドレナリンよりも優れた長期予後改善効果をもつことがエビデンスとして確立された薬剤は今のところない9).Ⅴ おわりに現時点で,心肺停止患者に対するアドレナリンを含む血管収縮薬の長期予後改善効果について,エビデンスは確立されていない.RCTは不十分なサンプルサイズにより明確な結果を示せず,観察研究は分析方法の違いにより異なる結果を示している.今後の観察研究では適切な方法によるバイアス除去と共変量の調整を十分に行い,可能ならば大規模なRCTを実施し,以下のような点を明らかにしていくこと