カレントテラピー 32-8 サンプル

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68 Current Therapy 2014 Vol.32 No.8782Ⅱ アドレナリンの効果に関する研究結果これまでのところ,心肺停止患者に対するアドレナリンの長期予後改善効果について,偽薬との比較により検討したRCTは,明確な結果(統計的に有意な改善効果)を示すことができていない5),6),9).死に瀕した患者に偽薬を投与することには倫理的な問題や医療従事者の心理的抵抗があることに加え,長期予後比較には相当に大きなサンプルサイズが必要となるため,長期予後をエンドポイントとして偽薬との比較を行ったRCTは数少ない.現在のところ,院外心肺停止患者に対する病院前投与の効果を検討したノルウェーとオーストラリアの2つの試験があるだけである(ノルウェーの試験はアトロピン,アミオダロンも投与薬剤として含む)5),6).両者とも,実薬投与群で自己心拍再開の割合が高かったが,長期予後に有意な差は認めなかった(表1).ただし,どちらの試験もサンプルサイズが不十分であり,観察された長期予後の差(投与群に有利な方向性を示した)を統計的に有意とする検出力がなかった可能性がある1),10).心肺停止患者を対象とする大規模RCTの実施は非常に困難であるため,大規模な患者登録データを分析した観察研究が重要となる.スウェーデンと日本における院外心肺停止患者を対象とした観察研究によると,長期予後良好となる可能性は,アドレナリンの病院前投与を受けた群において非投与群の半分程度であった(表1)4),7).一方,病院前投与と長期予後改善との関連を示した日本の観察研究もある8).その研究は目撃者のある院外心肺停止症例を対象に,初期波形で心室細動/無脈性心室頻拍(VF/VT)とそれ以外の波形(non-VF/VT)に分けて分析し,波形に関わらず投与群の生命予後は非投与群より良好だが,投与と神経機能予後との関連は限定的(特にVF/VT症例では差がない)という結果を示した(表1,図1).日本の2つの観察研究は4),8),同じ総務省消防庁の救急蘇生統計データ(後者は目撃なし症例を除外しているが)を用いて異なる結果を導いており,観察研究における共変量(結果に影響し得る変数で背景因子や交絡因子を含む)調整やバイアス除去の難しさを物語っている.観察研究の結果を解釈する際には,バイアスや交絡の影響を注意深く検討する必要がある.Ⅲ 観察研究における分析方法の検討観察研究ではRCTと異なり,投与群と非投与群の同等性が保証されないために,統計分析の際に共変量調整やバイアス除去を行うことが不可欠である.ただし,統計的調整は分析に組み込んだ変数につい表1 院外心肺停止患者に対するアドレナリンの病院到着前投与の効果に関する最近の研究とその主要な結果─ 予後指標の数値は予後良好なものの割合(実薬群/投与群 vs 偽薬群/非投与群)著者場所研究期間予後指標生命予後(生存退院/1カ月生存)神経機能予後(CPC1-2)Olasveengen et al.6) ノルウェー2003-2008 10.5% vs 9.2% 9.8% vs 8.1%Jacobs et al.5) オーストラリア2006-2009 4.0% vs 1.9% 3.3% vs 1.9%Holmberg et al.7) スウェーデン1990-1995 3.4% vs 6.3% -Hagihara et al.4) 日本2005-2008 5.1% vs 7.0% 1.3% vs 3.1%Nakahara et al.8) 日本2007-2010VF/VT:17.0% vs 13.4%non-VF/VT:4.4% vs 2.4%VF/VT:6.6% vs 6.6%non-VF/VT:0.7% vs 0.4%CPC:Glasgow-Pittsburgh cerebral performance category(1:良好,2:中等度障害,3:高度障害,4:昏睡,5:死亡).CPCカテゴリ1と2を神経機能予後良好とする.VF/VT:ventricular fibrillation or pulseless ventricular tachycardia(心室細動/無脈性心室頻拍)〔参考文献10)より引用改変〕