カレントテラピー 32-8 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.8 67781Ⅰ 諸言アドレナリンは心肺蘇生時に広く使用されてきた血管収縮薬である1).末梢血管を収縮させることにより,脳や冠動脈の血流を保ち,心拍再開を促す効果を期待して投与される2).しかし同時に,心筋の収縮力を増強して酸素需要を増大する作用や,脳および心筋の微小循環を阻害し得る作用ももつため,虚血の増悪により心機能や神経機能を悪化させる危険性も懸念されている3).アドレナリン投与が心肺停止患者の短期予後(自己心拍再開)を改善させることは,複数の無作為化比較試験(RCT)や大規模観察研究により示されているが4)~6),その長期予後(生命予後および神経機能予後)改善効果はエビデンスとして確立されていない.RCTは長期予後改善効果を明確に示すことができず5),6),大規模観察研究には長期予後悪化を示唆するものと4),7)改善を示唆するものがある8).本稿では,心肺停止患者の長期予後に対するアドレナリン投与の効果について,院外心肺停止患者を対象とした最近の臨床研究(介入研究および観察研究)を中心に解説し,心肺蘇生時の血管収縮薬使用に関するエビデンスを確立するために今後必要と思われる研究課題を検討する.多くの研究において,良好な長期予後の定義として,生命予後については1カ月後生存または生存退院を,神経機能予後については1カ月後または退院時の脳機能カテゴリ(Glasgow -Pittsburgh cerebral performance category:CPC)の1(良好)または2(中等度障害)を用いている(3:高度障害,4:昏睡,5:死亡).心肺蘇生におけるアドレナリンの功罪中原慎二*心肺蘇生におけるアドレナリンの有効性について,院外心肺停止患者を対象とした研究を中心に解説し,今後の研究課題を検討する.アドレナリンの長期予後改善効果はエビデンスとして未確立である.偽薬と比較した無作為化比較試験(RCT)では,アドレナリンの有効性を示せなかったが,有意差を検出するにはサンプルサイズが不十分であった可能性がある.観察研究の多くは,投与と長期予後悪化との関連を報告しているが,自己心拍再開のタイミングによる選択バイアスを考慮した分析により,投与と長期生命予後改善の関連を報告したものもある.今後のエビデンス確立のためには,観察研究では適切なバイアス除去とより詳細な共変量調整を行い,可能ならば大規模なRCTを実施し,アドレナリンを含む血管収縮薬の心肺蘇生における有効性を検証する必要がある.有効性が確認された場合には,至適投与量や投与すべき症例の識別なども明らかにしていくべきである.* 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授救急医療の現状と展望― セーフティネットを求めて