カレントテラピー 32-6 サンプル page 5/32
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カレントテラピー 32-6 サンプル
8 Current Therapy 2014 Vol.32 No.6514Ⅰ はじめに最近,うつ病の概念が混乱していると言われるが,少なくとも欧米ではこうした問題が指摘されることはない.確かに操作的診断に関する批判はあるものの,うつ病と翻訳されるdepressionが指し示す内容に変化はない1).したがって,「うつ病概念の混乱」は日本特有の現象だと言える.そもそも,英語には日本語のうつ病と当価の言葉がなく,上述したdepressionにしても,より広い意味を有する.すなわち,医学的な使用に限っても,健康な人の意気消沈から,症状としての抑うつ,major depression(大うつ病)2)といった病名も指し,経済用語では不景気を意味する.このように,原義は圧力が下がることであり,共通した訳語を当てるとしたら,「落ち込み」である.結論を先取りすれば,うつ病概念の混乱は,操作的診断基準であるDSM -Ⅲ3)の登場以降,病名としてのdepressionにすべてうつ病という訳語を当てたことに一因があり,ひいてはそれが「現代型うつ病」という言葉の流布にもつながるわけだが,この背景には日本固有の医療状況も見え隠れする.本稿では,うつ病の概念変遷について簡単に整理したうえで,現代型うつ病に触れたい.Ⅱ 用語の変遷1 melancholiaからdepressionへうつ状態を表す英語としては,depressionのほかにmelancholiaもある.こちらは,古代ギリシャにまでさかのぼる言葉であるが,近代以降ほぼ一定の最近のうつ病概念の混乱について─現代型うつ病とは?─阿部隆明*最近のうつ病概念の混乱は,1980年代から米国の操作的診断基準が広く受け入れられ,depressionがほとんどうつ病と訳されたという事情が一因である.同時に,「うつ病」が心の風邪として喧伝されcommon disease化すると,この診断への抵抗も少なくなったという背景もある.その結果,適応障害レベルの抑うつでも,明確な「疾患」として診断してほしいという願望を抱いて受診する人々が増加した.彼らの一部が呈する「現代型うつ病」とは,医学的概念ではなく,症状の状況依存性,他責性,病者意識の希薄性を示す若年被雇用者の軽症抑うつ状態とまとめることができる.彼らに対して薬物療法は有効ではなく,心理的なアプローチや環境調整が必要である.とはいえ,一見「現代型うつ病」に見えても,薬物療法の奏効する気分障害もあるため,その鑑別が重要である.いずれにしても,気分障害に関する諸用語について,明確な定義が与えられれば,うつ病概念の混乱は収束するであろう.* 自治医科大学精神医学教室教授/自治医科大学とちぎ子ども医療センター子どもの心の診療科教授うつ病診療―入り口から出口まで