カレントテラピー 32-6 サンプル

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78 Current Therapy 2014 Vol.32 No.6584認知症とうつ病の関係順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授 新井平伊1 はじめにうつ病や認知症の患者数が増加したことを受け,2011年厚労省は医療政策のなかで重要視すべき疾患として,それまでの4大疾病に精神障害を加え5大疾病とした.これら注目されている両疾患の関係のうち,特にうつ病が認知症の危険因子であるとの知見について概説する.2 血管性うつ病と血管性認知症高齢発症のうつ病では多くの生物学的および社会心理的要因が関係しているが,器質的要因の代表である血管障害を共通の基盤として両者が関係してくるのは当然理解できる.ラクナ梗塞など無症候性脳血管障害を含む脳梗塞・脳出血をもつ高齢者ではうつ病を呈しやすく血管性うつ病と称されるが,その後の経過で血管性認知症を発症してくることも少なくない.3 高齢者うつ病とレビー小体型認知症レビー小体型認知症(dementia with Lewybodies:DLB)ではいくつもの精神症状を伴うが,うつ病もそのひとつである.しかも,DLBの初期には記憶障害などの認知機能障害が軽度であるため,臨床的にはうつ病がDLBの初期症状や前駆症状となることも少なくない.4 うつ病とアルツハイマー病いくつもの疫学的研究からうつ病の既往があると,アルツハイマー病(AD)発症のリスクが2~3倍に高まることが報告された.しかも,高齢発症のうつ病の場合に比べ,より若い発症の成年・壮年期のうつ病の既往があるほうがリスクが高かった.また,うつ病相の回数が多いとよりADになりやすい.この背景にある病態生理の解明はいまだ不十分であるが,仮説としては,視床下部下垂体副腎皮質系を介した海馬障害やアミロイド代謝の関与が重要視されている.われわれの自験例のデータでは,末梢血レベルであるがうつ病相ではアミロイド代謝異常がみられることが明らかになっており,共通の病態生理としての存在が示唆される.以上のようなうつ病と認知症の関係に基づいて臨床で重要なことをまとめると,高齢発症のうつ病では,脳血管障害を伴う際には脳梗塞などの再発予防に心掛け血管性認知症への進展に注意すること,また認知機能や仮面様顔貌等の錐体外路症状に注意しDLBを見逃さないこと,そしてより若い成壮年期発症のうつ病では,うつ病治療を適切に行い,うつ病の再発を防ぐことで将来のADの発症リスクを減らすこと,ということになろう.うつ病診療―入り口から出口まで