カレントテラピー 32-6 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.6 53気分障害研究のトピックス559似した病態生理を有している点が挙げられる.両疾患に共通して,視床下部- 脳下垂体- 副腎系(Hypothalamic-pituitary-adrenocortical axis:HPA axis)機能の異常が指摘されている.不眠症とうつ病ではともに何らかの素因やストレスイベントなどを契機として,HPA axisの過活動が顕在化すると考えられる.HPA axisは糖質コルチコイドの分泌調節を担っているシステムである.生理的なHPA axisの活動は体内時計の制御のもとに,睡眠前半が最低で,睡眠後半から徐々に高まり,朝に最高となり,その後入眠時刻に向けて徐々に低下する日内変動を示す.CRHには覚醒作用があり,CRHによって脳波基礎活動の周波数は増加し,徐波睡眠(深い睡眠)は減少し,浅い睡眠と覚醒が増加する22).慢性の不眠症ではHPA axisの活動が亢進しているため,浅い睡眠や中途覚醒など低質な睡眠を招き,このことがさらにHPA axisの活動亢進を引き起こす悪循環に陥っていると考えられる23).すなわち,うつ病ときわめて近似したHPA axisの過活性状態が慢性不眠症患者でも認められる.Ⅸ 抗うつ薬が睡眠に与える影響抗うつ薬の多くはさまざまな睡眠修飾作用を有する.表は各種の抗うつ薬が有する催眠鎮静作用と覚醒作用の強度を簡便にまとめたものである(生物学的精神医学会世界連合WFSBPによる単極性うつ病性障害の生物学的治療ガイドライン等のデータを参照24)).各抗うつ薬が睡眠に与える影響はまちまちだが,一般的にセロトニン受容体(5-HT1A,5-HT2),α1およびα2 受容体(α1 /α2),ヒスタミン受容体(H1)が主として関与している.5-HT1 Aの刺激がREM睡眠の抑制に,5-HT2受容体の刺激が(深)睡眠の阻害に働く.一方,α1 /α2,H1の遮断は睡眠を促進する25).三環系抗うつ薬の多くは催眠鎮静作用が強いが,REM潜時を延長しREM睡眠を抑制する.現在主流のSSRI,SNRIは残念なことに不眠改善作用は乏しく,むしろ入眠潜時を延長させ睡眠の連続性は悪化する26).したがって,三環系抗うつ薬,SSRI,SNRIの急速な中断時には不眠症状だけではなく,REM睡眠のリバウンドにより悪夢やREM睡眠行動障害が出現する可能性があるので注意が必要である.また,SSRIやSNRIがレストレスレッグス症候群27)や周期性四肢運動障害28)を増加させるという報告もある.Ⅹ うつ病の不眠治療の基本方針持続する不眠は患者にとって耐え難いものであるため,うつ病に合併した不眠に対して早期に治療介入し,良質な睡眠を維持することは,うつ病患者の日中の機能を回復させ,QOLを著しく向上させ,再発を防止するために重要である.うつ病診療では抗うつ薬の単剤療法が推奨され,睡眠薬の併用は極力1009080706050403020100初発エピソード再発(3回目以降)寛解期(3回目)83.4% 65.4%27.7%79.0%86.2%73.0%39.0%77.2%45.0%85.3%93.8%75.9%89.8% 93.8%再発(2回目)寛解期(2回目)再発(1回目)寛解期(1回目)図3残遺不眠の頻度と持続期間初発の大うつ病患者128名(受診時平均年齢52.8歳)の不眠症状を平均3.33年間追跡した.その間に平均2.06回の再発がみられた.棒グラフが病相期および寛解期で不眠が認められた期間の割合,折れ線グラフは不眠を経験した患者の割合である.それぞれ,黒が病相期の,グレーが寛解期のデータを示す.〔参考文献7)中の筆者のデータを元に作成〕