カレントテラピー 32-5 サンプル

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72 Current Therapy 2014 Vol.32 No.5486分子標的薬により明らかとなった分子病態慶應義塾大学医学部内科学教室リウマチ内科助教 泉 啓介関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,滑膜で単球/マクロファージ,T細胞,B細胞,好中球,血管内皮細胞などが炎症環境をつくり出し,滑膜細胞の増殖や血管新生,破骨細胞の活性化などを引き起こし,軟骨や骨破壊が生じる病態である.この病態に関与する分子は関節炎の動物モデルによって数多く報告されてきた.1980年代,げっ歯類の関節炎モデルからインターロイキン(IL)-1がRA病態の首座であると広く考えられていた最中,英国のFeldmannらはRAの病態に腫瘍壊死因子(tumor necrosisfactor:TNF)が中心的な役割を果たしていることを報告し,1989年にTNFを阻害するキメラ抗体が開発され,さらに,1993年に同抗体のヒトへの初の投与の報告もなされた.この報告では,TNF阻害薬がRAの劇的な臨床的改善をもたらすのみならず,C反応蛋白や赤血球沈降速度とともに血清IL -6も下げることが示された.その後,1998年にTNF -αとβの両方に結合する可溶性TNF受容体融合蛋白のエタネルセプトが実臨床に登場し,翌1999年にTNF -αに対するキメラ抗体のインフリキシマブ(IFX)が,そして2008年,世界に先駆け本邦においてIL -6受容体抗体であるトシリズマブ(TCZ)がRAに承認された.一方で,当初病態の首座と考えられたIL -1の阻害療法は,ヒトでは効果が限定的で,欧米では承認されたもののわが国では認可されていない.RAにおけるTNFとIL -6の関係について,われわれは生物学的製剤を初めて用いる患者を対象にIFXとTCZ治療による血中サイトカイン変化を検討したところ,IFXはIL-6を下げる一方,TCZはIL-6やTNF-αを下げなかった.ゆえにRAのサイトカインネットワークのなかで,TNFはIL -6よりも上流にあることが推察された.また,各製剤の奏効率から推測すると,このTNF -IL -6 pathwayはRAの7割程度の病態に関与するのではなかろうか.ほかにも,現時点で承認されている分子標的薬として,アバタセプトがある.これはT細胞選択的共刺激調節剤と呼ばれ,ヒトCTLA -4およびIgG1のFcドメインで構成された融合蛋白であり,抗原提示細胞上の共刺激リガンドであるCD80/86にCD28よりも強い親和性で競合的に結合し,T細胞表面のCD28を介した共刺激を阻害することでT細胞の活性化を抑制する.さらに本邦ではRAには適応がないものの,海外ではB細胞表面分子のCD20抗原に対するキメラ型抗体のリツキシマブが承認されており,B細胞を枯渇させることでRAを改善させる.今まで挙げた薬剤はいずれも膜表面分子や分泌蛋白を標的としているが,近年は,細胞膜表面からのサイトカインシグナル伝達を担うヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーなどの細胞内分子を標的とした低分子化合物も登場してきている.RA病態を考えるうえで示唆に富むのは成功した治験データだけとは限らない.IL -17受容体やBAFFに対する抗体はうまくいかず,IL-17に対する抗体も効果は限定的であった.今後も,抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)抗体,抗RANKL抗体,抗フラクタルカイン抗体,JAK1/2阻害薬などが治験を行っており,これらの知見からRA分子病態の解明が一層進むだろう.