カレントテラピー 32-4 サンプル

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10 Current Therapy 2014 Vol.32 No.4326からの複製であり,導管内にある前駆細胞からの分化は少ない.3 ヒトβ細胞の成長,加齢による変化Kohlerらは,β細胞の複製には細胞回転が必須であり,そこにcyclinを調節するいくつかの遺伝子が関与することを示した4).そのなかで,キナーゼ阻害因子としてのINKファミリーのp16はβ細胞複製の抑制因子となることが知られている4).実際に,p16ノックアウトマウスではβ細胞の複製が増加する.ヒト膵組織でもp16発現が加齢によって亢進する.同じく細胞回転に関わるp27は,げっ歯類で重要なβ細胞の調節因子とされており,p27の欠如はβ細胞の複製を促進し,β細胞容量を増加させる.逆に糖尿病のβ細胞では核に過剰に蓄積してみられる.一方,cyclin D3はヒト膵島での豊富なcyclin Dであり,β細胞複製に関わっている.ヒト新生児期に比し,p16, p26, cyclin D3いずれも成人のβ細胞で高くなることが知られている4).すなわち,これらの分子発現の亢進がヒト成人でのβ細胞複製能の低下と関連している可能性が高い.Maedlerらは,17~74歳までの膵ドナーから膵島を単離し,加齢が単離β細胞にいかなる影響を与えるかをみている5).彼らは高齢者から得た単離β細胞がブドウ糖刺激により高度のアポトーシスに陥ることを示した.同時に膵転写因子PDX -1の発現も加齢により大きく減弱することを見出した.彼らは,このことが加齢によるβ細胞の脆弱性に関与し糖尿病発症の一因となっていると提唱している.4 ヒトβ細胞の寿命Cnopらはβ細胞の細胞質内に特異的に発現するリポフスチン顆粒の蓄積を電顕観察しβ細胞寿命の算定を試みている.それによると,12カ月齢以内のラットではβ細胞寿命はおよそ30~60日が半減期と推定されている.これに対し,ヒトでは20年程度にわたりリポフスチン顆粒が漸次蓄積してみられており,したがってその寿命は少なくとも20年以上はあると結論した6).また,この観察結果からヒトβ細胞の再生能力はきわめて低いとしている.彼らの観察によると肥満,インスリン抵抗性,糖尿病などの状態でリポフスチン顆粒の数には影響はみられず,その再生能力はこれらの条件で影響を受けないとしている.一方,Perlらは検査のためチミジンをマーカーとしたiododeoxyuridine(IdU)およびbromodeoxyuridine(BrdU)を投与され,その後8日から4年後に死亡した患者の膵を検討した.また,単離した膵島β細胞DNAへの14C 取り込みをDNAを抽出し計測した.その結果,20歳未満の膵ではBrdU/IdUの取り込み率は1~2%のβ細胞でみられたが,30歳を超えた成人では取り込みはみられなかった7).すなわち,14C取り込みからみたβ細胞の発生は30歳以前に起こると報告した.このように,ヒトβ細胞の寿命は少なくとも20~30年程度であり,その誕生はほとんどが若年期にあるということがこれらの結果から示される.5 日本人β細胞の発達と加齢の影響これまで,日本人のβ細胞の動態についての情報は少なかった.当研究室では日本人の各世代の剖検例を収集し,成長,加齢によるβ細胞の動的な変化を検討した.まず,膵重量は成長とともに増加し,20歳代で成人としての一定の重さに達する8).膵島の占める割合は,誕生時には膵全体の4~5%程度の面積を占めている.その後,成長に伴い膵外分泌が発達する.膵島面積は3%,β細胞面積としては2%弱程度にしかならない.導管や腺房組織内に散在する少数の内分泌細胞からなる膵島は新生膵島(neogeneticislets;small islet<330μm2)と定義されている.出生時から10歳までその数は多いが,以後加齢に伴い減少する.これに比し,導管と連続性のない比較的大きい膵島(>330μm2)は加齢による影響を受けず,一定の割合で分布する.体部・尾部ではβ細胞が膵島の主体であり,60~70%を占める.α細胞やδ細胞の膵島に占める割合は若年時には多いが,成長とともに減少する.成人での膵全体に占めるβ細胞容積はほぼ一定で1.5~2.5%を占める.この割合は60歳台までは加齢による影響を受けない.身体活動の衰える70歳,あるいは80歳台になり初めてβ細胞容積が減少する.また,β細胞の膵組織内細胞密度は出生時に高いものの成長,加齢とともに次第に減少する(図2).β細胞量としてみた場合,