カレントテラピー 32-4 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.4 13糖尿病の病態Update329再生が起こるものと考えられる.Ⅳ 肥満でのβ細胞代償性肥大と日本人と欧米人の差β細胞の再生能を示すものとして,肥満やインスリン抵抗性における膵島肥大,β細胞過形成がある.米国人での研究ではBMI 25未満のやせの群に比しBMI 27以上の肥満者でβ細胞容積が1.5倍に増加していた10).またβ細胞量もBMIの増加に伴い増加し強い相関を示している11).このとき,β細胞の大きさに変化はみられないことから,β細胞の数が増加していることになる.一方,日本人ではBMI増加に伴う膵島肥大,β細胞過形成がみられない(図4).日本人でBMI 25未満と以上でβ細胞容積を比較した場合差はみらないものの,β細胞量とした場合BMI 25以上では膵重量自体が大となるため,25未満群に比しわずかに有意に重かった8).われわれの報告とは異なり,Kouらは日本人で加齢,BMI増大によってさらにβ細胞容積が減少することを示している12).いずれにしても,日本人ではインスリン抵抗性に対してβ細胞の再生能力が低いことを示唆しており,糖尿病になりやすい素因があるものと考えられる.Ⅴ 妊娠時のβ細胞過形成機構妊娠時の膵島は一過性の過形成を示す.この過程にはプロラクチンからの刺激によるβ細胞でのセロトニン合成機構の促進が関与している13).そこでは,β細胞でのセロトニン合成酵素の産生亢進,セロトニン合成促進が起こる.セロトニンはβ細胞内のインスリン顆粒内に局在しており,グルコース刺激によって分泌される.妊娠膵β細胞はセロトニン刺激によりオートクライン的に活性化され,β細胞の再生が促進される.同時にβ細胞でのセロトニン受容体の発現も亢進しG蛋白を介したシグナル活性も亢進する.この経路には,JAK-STAT5経路やErk1/2の活性化を必要とし,多くの修飾因子があることが示唆されている.また,妊娠時に神経成長因子や肝細胞成長因子それぞれの受容体の活性化もβ細胞の増殖機構につながることも動物レベルでは示されている14).このような,ホルモン依存性のβ細胞複製機構の亢進が妊娠時の血糖恒常性を保つために作動している.この機構の障害が妊娠糖尿病の素地となっている可能性が高い.Ⅵ 糖尿病でのβ細胞の再生能β細胞の量の減少は,細胞死の亢進と細胞の再生能の低下の二つに大きく起因している.糖尿病動物での再生能低下はしばしば示されているが,これが一次的にβ細胞の減少に寄与しているかわかっていない15).2型糖尿病モデルでのGKラットでは若齢から増殖能の低下を認め16),β細胞の早期からの減少をもたらす.その責任遺伝子の候補としてインスリン分解酵素Insulin degrading enzyme(Ide)の変異が同定されており,ヒト2型糖尿病でもこの遺伝子の関与が示されている17).しかしながら,ヒトではβ細胞の再生能は健常でも非常に低いことから,再生能低下のみで糖尿病のβ細胞量の減少を説明することは難しい.Ⅶ おわりに筆者が膵島病理に関心をもちはじめたおよそ30年以上前,すでに2型糖尿病ではβ細胞の機能異常が主因であり,β細胞量は変化のないものと結論づけられていた.今,2型糖尿病でのβ細胞量の減少は再現性高く実証されており,その機構への探索が続けられている.β細胞の脱落と再生の解明は糖尿病病理の根幹でもあり,糖尿病の根本的治療標的である.そのなかでヒトβ細胞の動態がより克明に明確にされることを期待したい.