カレントテラピー32-3 サンプル page 31/36
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カレントテラピー32-3 サンプル
90 Current Therapy 2014 Vol.32 No.3292ME差岩国市医療センター医師会病院総合診療科内科医長 松井芳夫1 ME差とは?家庭血圧で評価するME差とは,早朝(morning)に測定した収縮期血圧と就寝前(evening)に測定した収縮期血圧の差と定義される.日本の研究では,加齢,習慣性飲酒,β遮断薬の内服などがME差上昇の独立した規定因子であった.しかし,ME差が上昇しているという報告は日本からのみであり,米国やヨーロッパからの報告ではME差はほとんどないか,むしろマイナスになっている.これらの事実より,夜に晩酌をし,熱い風呂に入浴する日本独特の生活スタイルもME差上昇に関与していると考えられる.年齢とME差は密接な関連があるが,加齢に伴う圧受容体反射の障害により早朝血圧が主に上昇することでME差上昇に関与しているのではないかと考えられている.β遮断薬内服者は,早朝のα交感神経活性が相対的に上昇するため,早朝の血圧が特異的に上昇することになり,ME差が上昇している可能性がある.2 ME差と脳心血管リスク家庭血圧ME差の予後に関するエビデンスは限られており,わが国で行われている大迫研究において,ME差が大きいほど,心血管死亡のリスクが高まるということが報告されているのみである.ME差と臓器障害との関連はいくつか報告されているが,われわれは,未治療高血圧患者において,ME差が大きいほど,左室肥大・左室リモデリングが進行していることを報告している.睡眠時無呼吸のある患者は左室肥大が進行しているという報告があるが,睡眠時無呼吸の重症度はME差を大きくする要因であると報告されている.したがって,ME差の左室肥大リスクは睡眠時無呼吸の病態が背後に存在する可能性がある.3 ME差を低下させる治療法ME差を低下させる治療は,就寝前の血圧をそれほど下げずに,早朝に特異的な降圧をもたらす治療が理論的に考えられる.α遮断薬ドキサゾシン,カルシウム(Ca)拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の就寝前の投与などが理論的に考えられる.実際にコントロール不良な早朝高血圧患者に対して,交感神経終末にあるN型Caチャネルを阻害する作用を有するCa拮抗薬シルニジピンの就寝前投与はME差を有意に低下させることができたと報告されている.高血圧患者2,319名を対象として,シルニジピンによる12週にわたる介入下での家庭血圧の変化を検証したACHIEVE -ONE試験によると,77%の患者がシルニジピン朝1回投与であったにもかかわらず,ME差を有意に低下させ,さらに開始時のME差が大である群ほど,ME差をより改善させることができた.したがって,交感神経活性抑制作用を有するシルニジピンは,交感神経亢進の関与が指摘されているME差の大きい早朝(優位)高血圧患者に特に効果的である可能性がある.今後は,ME差をターゲットとした治療法が高血圧患者の臓器障害や脳心血管予後を改善させることができるのか前向きに検討されるべきであろう.家庭血圧―これからの高血圧個別治療へ