カレントテラピー32-3 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.3 45247定される血圧値は一般的に診察室血圧よりも低値であることが多く,家庭血圧では135/85mmHg以上,ABPMの24時間平均値では130/80mmHg以上が高血圧の診断基準とされている.診察室血圧は正常であっても,家庭血圧やABPMで血圧が高値であれば仮面高血圧とされるが,これには,早朝高血圧,夜間高血圧や昼間・覚醒時の血圧上昇などの血圧日内変動の異常が含まれる.早朝の時間帯における急激な血圧の上昇は,脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントの引き金となると考えられている1),2).夜間における生理的な血圧低下の欠如はnon -dipperとも称され,心機能・腎機能の低下による循環血液量の増加や脳血管障害,睡眠時無呼吸症候群(sleepapnea syndrome:SAS)などの病態が関係し,いずれも循環器系臓器障害の進展や心血管疾患のリスクの増加に関係することが示されている3),4).昼間・覚醒時の高血圧は家庭や職場など日常生活の環境において精神的・身体的なストレスが血圧上昇の原因になり,そのような状況の継続も長期的には臓器障害や心血管疾患のリスクを増加させることが報告されている5),6).したがって,高血圧患者において,臓器障害の進展や心血管疾患の発症を抑制し,長期的な予後を改善するためには,診察時の血圧測定だけでなく,24時間にわたり厳格な血圧コントロールを達成することが重要である.この意味で,わが国の高血圧治療ガイドラインにおいてもABPMや家庭血圧のモニターが診察室血圧よりも高血圧患者の予後を予測するうえで有用性が高いことが強調されている7),8).Ⅲ 仮面高血圧に関係する因子の改善仮面高血圧には早朝高血圧,ストレス下高血圧,夜間高血圧など複数の血圧変動異常パターンが含まれており,その原因や病態に関係する因子も多岐にわたる(表1)15).近年はこれにSASにおける低酸素状態が交感神経活動を高めることにより就眠中の血圧を上昇させ,仮面高血圧をきたすことが加えられている.表1に挙げられた因子の多くは不適切な生活習慣に関係するものであり,すなわち生活習慣の修正が非医療環境下における血圧上昇を抑制し,仮面高血圧の血圧変動異常を改善するのに有効であると考えられる.喫煙の急性効果として,収縮期血圧は3~12mmHg,拡張期血圧は5~10mmHg,心拍数は15~25拍/分増加する.各回の喫煙が血行動態に及ぼす影響の持続は15~30分程度であり,ニコチンによる昇圧効果には耐性が生じないが,一日に数十本の喫煙が繰り返されると,日中に持続的な血圧上昇に近い状態がもたらされる.そして,通常医療施設は禁煙であり,外来診察時に喫煙で血圧が上昇することはないので,喫煙習慣により血圧の日内変動が仮面高血圧の状態になることがある.図1はわれわれが正常血圧男性において1週間の喫煙,あるいは禁煙の後に血圧の日内変動をモニターした結果であるが,喫煙期においては日中に持続的な血圧上昇と脈拍数の増加が認められている9).喫煙が冠動脈疾患や脳卒中などの心血管疾患の危険因子であることはよく知られているが,加えて喫煙者では左室肥大や頸動脈壁肥厚などの高血圧性臓器障害が多く認められ10),11),喫煙による仮面高血圧が心血管疾患のリスクに寄与すると考えられる.また,喫煙は肺癌などの悪性腫瘍の発生を増加させ,冠動脈疾患や呼吸器疾患の主要な危険因子でもあるため,血圧に及ぼす影響以外の観点からも,絶対的に禁煙が望ましい.過度の飲酒は高血圧の発症を助長させるが,飲酒量と血圧の間にJ字型の関係も認められており12),適度の飲酒により精神的緊張が緩和されることが関与表1 仮面高血圧が疑われる高リスク群・降圧治療中の高血圧患者・正常高値血圧者(130~139/85~89mmHg)・喫煙者,アルコール多飲者・精神的ストレス(職場,家庭)が多い者・身体活動度が高い者・心拍数の多い者・起立性血圧変動異常者(起立性高血圧,起立性低血圧)・肥満,メタボリックシンドローム,糖尿病患者・臓器障害(特に左室肥大,頸動脈内膜肥厚)合併者・心血管疾患の合併者〔参考文献15)より引用〕