カレントテラピー 32-2 サンプル page 8/26
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カレントテラピー 32-2 サンプル
Current Therapy 2014 Vol.32 No.2 11総合診療医の必要性111ている検診の受診率は50%以下のところがほとんどである.場所を設けて,そこに来てくれる人だけを対象にしている限り,この数値は伸びないと思われる.2012年,埼玉県にある東埼玉総合病院のスタッフが中心となり,病院の周囲にある幸手団地の全住民を対象に訪問調査をしたことがあった.その結果,受診あるいは入院が必要な状態なのに,医療にかかっていない住民が見つかり,医療につなぐことができたという.訪問調査では,一人ひとりの健康状態以外にも家族や近隣との関係など多岐にわたる質問を行い,医療・介護以外に加えて生活支援の必要性についても検討し,しかるべき支援機関へつないでいった.常々感じることだが,ほとんどの医師は自分のところに来る患者のことしか把握していない.地域全体でどのような患者がどのぐらいいるのかといったデータを集めることが難しいのか,あるいは必要性を感じていないかのどちらかだろう.地域の患者の把握ができていないのだから,まして患者予備軍のことを把握しているわけがない.つまり野放しである.現在,救急医療がパンク寸前である.患者の5~6割が高齢者という地域がほとんどだ.この患者を治療して,早めに退院させて,次の患者のためのベッドを空けなくてはならない.ところが,退院後の患者の受け皿がない.施設は満杯のため入所できず,自宅に帰るまでには回復していない.そのため,退院できない患者が次に入院したい患者のベッドを使っている形になる.退院した患者のなかには,独居であったり高齢者のみの世帯で暮らしている人も増えている.そのような人たちの生活がしっかりと支えられているかどうかが重要である.なかなか買い物に行けなかったり,人との付き合いが希薄になったりすると健康状態が悪くなり,さらには救急車に乗るような状態になる.こうして,雪玉が坂道を転がるように患者が増えていく.埼玉の例のように,地域にはどのようなニーズが隠れているのかを調査し,診断する眼が「地域を診る医師」には求められる.前述したとおり,それを一人の医師が行う必要はない.地域には行政機関をはじめ,さまざまなステークホルダーがある.それらと協議,連携をしながら調査・分析事業を行っていけばよい.人手が足らないのなら,後述するような地域の組織を活用すればよい.ニーズが浮き彫りになったら,そこから先は医療・行政といった専門機関が情報発信やコーディネートを行いつつ,地域のセミプロを巻き込んでいけばよい.どの地域にも,民生委員や食生活改善推進員,母子保健推進員,自治会などの組織がある.「地域を診る医師」には,自分の地域にどのような組織があり,それぞれがどのような役割を担っているのか,また担ってもらうことが可能なのかを把握することが求められる.それには地元の保健師などとのコンタクトが有効だと思われる.このようにプロ・セミプロを巻き込んで,地域住民の生活支援を展開する.「そこまで医師がする必要があるのか」という声が聞こえることを承知したうえで,あえて申し上げたい.行政は,医師が音頭を取ったほうが素早く動くのである.住民は,医師が自分たちの健康のことも考えてくれていることがわかれば,協力するのである.Ⅴ おわりに私はすべての問題を総合診療専門医が解決できるとは考えておらず,考えるべきではないと思う.医療・介護・そして国民がそれぞれに変わらなくてはならない時代になった.人は生まれた以上,いつかは最期のときを迎える.そこまでの限られた時間を生き生きと過ごすために,一人ひとりが主体的に生きることができるよう,そのきっかけをつくるカギとなるのが総合診療専門医ではないかと思う.参考文献1)NPO法人地域医療を育てる会のホームページ(http://iryou -sodateru.com/index.html)2)東埼玉総合病院:「平成24年度 在宅医療連携拠点事業 共助のチカラで支える高齢社会」. (http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/seika/dl/booth4-03.pdf)