カレントテラピー 32-12 サンプル

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12 Current Therapy 2014 Vol.32 No.121174TIAに対して同じDPCコード「010060」が用いられてきた.つまりこれまでは,日本の急性期脳卒中の大部分を診療するDPC対象病院においては,脳梗塞とTIAを同一疾患群としてほぼ同様に診療してきたということである.具体的には,TIAも軽症脳梗塞もほぼ同様に診療してきており,TIAとAISを同一のスペクトラム上にある病態と考えるACVSの概念に一致した保険診療体制であったと言える.しかしながら本年(2014年)4月よりDPCでは脳梗塞とTIAを分けて取り扱うようになり,脳梗塞のDPCコードは「010060」であり,TIAは「010061」に変更された.今までのDPCデータの解析から,TIAは軽症のACVSであり入院期間が短いことが判明したため,一般的に入院期間の長い脳梗塞とは医療保険上の扱いを別にすることにしたためと思われる.つまり医療経済上の観点からは,従来のTIAと脳梗塞を同一スペクトラム上にある病態と考えるACVSの概念は採用されず,DPCにおける保険診療上,TIAと脳梗塞とは別扱いにされたものと考えられる.したがって,今後の日本における急性期脳卒中診療の現場では,TIAの診断基準を確立することが非常に重要になると思われる.現状では同一症例であっても,施設によってDPCコードが異なる可能性がある.2009年にTIA研究班が日本脳卒中学会認定研修教育病院に対して行ったアンケート調査の結果では,TIAの定義を平井班の画像上脳梗塞を認めない場合とする施設が全体の48%であり,画像上脳梗塞の有無を問わないNINDS -Ⅲの定義は全体の42%で採用されていた14).このアンケート調査の結果からは日本の急性期脳卒中病院においては,神経症状持続時間が24時間以内の虚血性脳卒中症例に対して,DWIで脳梗塞を認めた場合,平井班の定義を採用している約半数の48%の施設では,脳梗塞としてDPCコード「010060」で入院診療をすることになる.一方,NINDS -Ⅲの定義を採用する42%の施設では,DWIで脳梗塞を認めた場合でもTIAとしてDPCコード「010061」で入院診療することになる.現状の日本では,TIAの診断基準が米国のように確立していないため,急性期脳卒中病院の大部分を占めるDPC対象病院で,同一症例が,入院する施設により約50%の確率で,保険診療上の診断名が脳梗塞になったり,TIAになったりすることが実際におこっているはずである.この奇妙なTIAの保険診療の現状を是正するためにも,日本におけるTIAの診断基準を早急に確立する必要があると思われる.Ⅴ おわりにTIAの疾患概念は1950年代に始まり,1990年に発表された神経症状は24時間以内に消失するというNINDS -Ⅲの定義が現在も世界的に広く用いられている7).日本では,1990年の平井班の定義以降,診断基準の見直しはされていない2).米国では,2002年以降TIAの診断基準の改訂が頻回に行われ,画像診断(DWI)における組織変化による定義(tissuebaseddefinition)に変更され,急性脳梗塞を認めない場合のみTIAと定義している4),8),10)~12).現在の急性期脳卒中医療の日本の現場では,TIAに対する平井班の定義とNINDS -Ⅲの定義が約半数ずつ採用されている2),7).2014年4月に保険診療が改定され,DPC診断群分類に大幅な変更があり,従来TIAと脳梗塞は同じ扱いであったが,4月以降保険診療上,TIAと脳梗塞は別の扱いになった.したがって,早急にTIAの診断基準を確立しないと同一疾患に対して施設によって診断名が異なる可能性があり,急性期脳卒中医療の現場に混乱が生じるおそれがある.参考文献1)Millikan CH:anticoagulant therapy in cerebrovascular disease,In:Cerebral vascular diseases. by Millikan CH, SiekertRG, Whisnant JP, p181-184, Grune & Stratton, New Yorkand London, 19652)平井俊策:脳の動脈硬化性疾患の定義および診断基準に関する研究.平成元年度厚生省循環器病研究委託費による研究報告集.国立循環器病センター:80-89, 19903)Kidwell CS, Alger JR, Di Salle F, et al:Diffusion MRI inpatients with transient ischemic attacks. Stroke 30:1174-1180, 19994)Easton JD,Saver JL,Albers GW, et al:Definition andevaluation of transient ischemic attack:a scientific statementfor healthcare professionals from the American HeartAssociation/American Stroke Association Stroke Council;