カレントテラピー 32-12 サンプル page 5/30
このページは カレントテラピー 32-12 サンプル の電子ブックに掲載されている5ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
カレントテラピー 32-12 サンプル
8 Current Therapy 2014 Vol.32 No.121170Ⅰ はじめに一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)とは,一過性の脳虚血によって引き起こされる片麻痺などの局所神経症状が,短時間のうちに後遺症を残さずに完全に消失する病態である.TIAの概念は米国で1950年代に提唱され,1965年の第4回プリンストン会議でTIAという用語が正式に承認され,それ以降,脳梗塞の前兆として重要視されてきた1).わが国では,1990年の厚生省循環器病委託研究班(平井班)による脳血管障害の分類において,TIAは脳虚血による局所神経症状が出現するが24時間以内(多くは1時間以内)に完全消失するものであり,かつ頭部CTでは責任病巣に一致する器質的病変はみられないとされている2).一方,1995年以降急速に臨床応用が進んだMRI拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)を用いた研究において,TIA症例の約半数で急性脳梗塞を認めた3),4).したがって,現状ではTIAと脳梗塞の鑑別診断に大きな混乱が生じていると言える.米国では,DWIの急性脳梗塞の所見の有無を重要視した新しいTIAの診断基準を続々と発表してきている.わが国でも,2009年より厚生労働科学研究としてTIAの診断基準の再検討が始まっている.Ⅱ 概念の変遷TIAの概念は,米国で約60年前に誕生した.1951* 栃木県済生会宇都宮病院脳卒中センター神経内科 脳卒中センター長急性脳血管症候群としての一過性脳虚血発作―脳卒中予防の水際作戦一過性脳虚血発作の診断基準今井 明*一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)とは,一過性の脳虚血によって引き起こされる局所神経症状が,短時間のうちに後遺症を残さずに完全に消失する病態である.TIAの概念は,米国で1950年代に提唱され,1965年にTIAという用語が正式に承認された.米国では1990年の診断基準まで,神経症状の持続時間は24時間以内と定義されており,世界中の診断基準の基礎になっていた.日本では,1990年に発表された厚生省循環器病委託研究班(平井班)において,画像診断で脳梗塞を伴わない場合を狭義のTIAと定義した.1995年以降,MRI拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)を用いた研究によってTIA症例の約半数で急性脳梗塞を認めたことから,2002年以降の米国の診断基準においては,TIAでは画像上急性脳梗塞を認めないことが明記され,画像診断を重要視することになった.2009年の米国の診断基準からは,神経症状の持続時間の記載もなくなっている.日本においては現時点でTIAの診断基準は確立しておらず,医療現場に混乱が生じる可能性があり,早急に診断基準を確立することが必要である.