カレントテラピー 32-11 サンプル page 9/36
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カレントテラピー 32-11 サンプル
12 Current Therapy 2014 Vol.32 No.111064腎組織内にはアルギニン分解酵素であるarginaseが豊富に存在する.また血管内皮細胞にもarginaseⅠ(細胞質型),Ⅱ(ミトコンドリア型)が存在する.高血圧動物では,血管におけるarginase活性の亢進が示されている.尿毒症血清が血管内皮細胞におけるcationic amino acid transporter 1(CAT1)を介したL - アルギニン取り込みを阻害しeNOS機能を低下させることも報告されている.2)NOS機能異常,発現異常によるNO産生障害補酵素tetrahydrobiopterin(BH 4)はNOSによるNO産生に必須である.NADPHから供与された電子はoxigenase domainに運搬され,活性部位に存在するheme ironに電子が供与されると酵素が活性化され,NOが生成される.BH4はheme分子の還元(電子供与)に必須である.BH4が不足すると,NOSはNOではなく,superoxide anion(O2-)が生成される(uncoupling).NOS uncouplingはすべてのNOSアイソフォームに生じ得る(図3).酸化ストレス亢進下では,BH 4はBH 2へと酸化される.高血圧,糖尿病,動脈硬化モデルにおいて,BH 4 /BH2比の低下し,eNOS uncouplingが生じることが示されている.私共も糖尿病モデル糸球体においてNO availability低下,鏡像的に活性酸素種(reactive oxygenspecies:ROS)産生が増加していることを見出した(ROS/NO 不均衡).さらに腎組織中でBH 4 /BH 2比が低下し,糸球体におけるeNOS uncouplingが生じており,uncoupled NOSがROS産生源に転じていることを明らかにした13).NADPH oxidaseが一次的なROS産生源となり,BH 4を酸化しBH 4 /BH 2比の低下を惹起することも明らかにした13).BH 4投与により,NOSがre -couplingし,ROS/NO不均衡も改善した.興味深いことに,NOS uncouplingと時期を一致してアルブミン尿が認められ,re-couplingとともに,アルブミン尿が改善した(図4)13).糸球体における内皮機能障害がアルブミン尿出現と病因的に関連することを示唆するものである.このように内皮機能を的確に維持するために,細胞内のBH4レベルは厳格に一定に保持されている.細胞内BH4濃度は,産生速度,BH2への分解,BH2からのリサイクリング等が関与して決定される.BH4産生の律速酵素がGTP cyclohydrolaseⅠ(GTPCH-Ⅰ)である.GTPCH -Ⅰは細胞内BH 4濃度の維持,NO産生能,内皮機能保持にクリティカルな役割を果たしている.細胞内ではGTPCH-Ⅰはユビキチン- 26Sプロテアソーム経路で分解制御されており,AMPK(AMP -activated protein kinase)が本系路を抑制的に制御している.糖尿病腎組織ではAMPK活性の低下とこれに起因してGTPCH -Ⅰ発現が低下することが示されている14).私共は薬理的あるいは遺伝子改変によりGTPCH-Ⅰ活性を亢進させることによって糖尿病腎糸球体におけるeNOS uncoupling,NO availabilityが回復し,ROS/NO不均衡も是正され,同時にアルブミン尿が抑制されることを示した15).糖尿病自然発症モデルであるAKITAマウスにGTPCH-Ⅰトランスジェニックマウスを交配したところ,糸球体内皮障害の改善(NO産生能,内皮glycocalyx維持,透過性維持)とともに,アルブミン尿が抑制された.糸球体レベルeNOSGTPCH-1NADPH oxidaseCav-1cytosoleNOSBH4BH4PAkt, AMPKAgonistreceptorl-Arg NOeNOSUncoupled活性酸素種BH2活性酸素種図3 eNOSと関連分子の存在様式とeNOS uncoupling血管内皮細胞にはカベオラが存在し,ここにeNOSおよび関連する分子群が局在する.eNOSの機能発現には補酵素BH4が必須である.BH4が不足すると,eNOSはNOではなく,活性酸素種を産生する(eNOS uncoupling).近傍には活性酸素種の産生源となるNADPHoxidaseも存在し,産生された活性酸素種はBH4をBH2へ酸化する.〔著者作図〕