カレントテラピー 32-11 サンプル page 32/36
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カレントテラピー 32-11 サンプル
Current Therapy 2014 Vol.32 No.11 87Key words1139CKD-MBDと心血管疾患東海大学医学部付属病院腎内分泌代謝内科助教 比留川 喬東海大学医学部付属病院腎内分泌代謝内科教授 深川雅史腎臓は,骨・副甲状腺・腸管と密接な関係をもって,生体のミネラルバランスを保持している.慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の進行により尿中リン(P)排泄が低下すると高P血症や,P利尿因子である線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)23の高値を呈する.さらに活性型ビタミンD低下と低カルシウム(Ca)血症が起き,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)過剰分泌による二次性副甲状腺機能亢進症を呈して骨代謝バランスは骨吸収が優位となる.このような骨・ミネラル代謝異常(mineral bonedisorder:MBD)は骨病変のみならず血管石灰化をまねき心血管イベントや生命予後に関連することが知られている.CKD患者に起こる血管石灰化の特徴はメルケベルグ型中膜石灰化と言われている.これは尿毒症・酸化ストレス・高血圧・高P血症などに曝された血管平滑筋細胞が骨芽細胞へと形質転換して,ヒドロキシアパタイトの沈着を誘導する病態である.血清P自体によっても血管内皮障害と動脈硬化がもたらされる.血管石灰化を防ぎ生命予後を伸ばすためには厳格なP管理が重要である.活性型ビタミンD製剤は高用量だと高Ca血症,高P血症をきたし血管石灰化をきたす恐れがあるが,低用量では石灰化を抑制する作用も報告されており適正量投与が重要となる.また,2011年に発表されたADVANCE試験ではビタミンD単独投与に比べて,シナカルセトと低用量ビタミンDを併用した群のほうが透析患者における石灰化進展を抑制できる可能性が示されている.最近になりCa 値やP 値,Ca×P 積といった古典的な血管石灰化促進因子だけでなく,FGF 23が心血管イベントや生命予後に関わる因子として注目を集めている.FGF 23高値が血清CaやP値とは独立して心血管イベント・生命予後と関連するとの報告が相次いでおり,それは保存期CKD患者や透析患者のみならず,CKDを有さない高齢者の検討でも関連が報告されている.FGF 23は骨細胞から分泌されるP利尿ホルモンで,近位尿細管からのP排泄促進や腸管でのP吸収抑制,および1α水酸化酵素の抑制による活性型ビタミンD合成の抑制を行っている.FGF 23のシグナル伝達にはFGF受容体とα-Klothoの両者が必要とされる.そのため腎臓や副甲状腺などα-Klothoを発現している臓器のみが標的臓器になると考えられ,FGF 23高値が単独でどのようにして心血管イベントへ影響するのか,その機序は不明であった.近年FaulらはFGF 23 高値が左室肥大と関連すること,FGF 23 を投与されたマウスに左室肥大が起きることを報告し,FGF 23が直接臓器障害を引き起こして心血管イベントに関わる可能性を示した(J Clin Invest 121:4398- 08 , 2011).またα-Klothoの血管石灰化保護作用に関する報告もいくつか存在しており,FGF 23と心血管イベントの関わり合いについてはさらなる注目が集まっている.今後作用機序が解明されれば,新たなtherapeutictargetとなることも期待される.