カレントテラピー 32-10 サンプル

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86 Current Therapy 2014 Vol.32 No.101034カテプシンKによる骨吸収の制御とその阻害慶應義塾大学医学部整形外科学教室講師 宮本健史“カテプシンK”といっても耳慣れない方も多いかもしれないが,手塚ら日本のグループによって破骨細胞から発見された蛋白分解酵素のひとつで,生体中では他の細胞にも若干の産生は認めるものの,破骨細胞にかなり特異的に発現することが知られている.破骨細胞が骨を吸収する際には,カルシウムのほかに骨に豊富に存在するマトリックス蛋白の分解も重要になる.しかし,破骨細胞はカルシウムの分解にはプロトンポンプからの強酸の分泌で,またマトリックス蛋白,特に骨基質に最も多く存在するコラーゲンの分解にカテプシンKで対応しており,カテプシンKはこの強酸環境を至適条件とする特異な蛋白分解酵素である.破骨細胞は骨吸収を担う生体唯一の細胞であることから,骨吸収が亢進する骨粗鬆症の治療においては,重要な治療標的として,ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体などが開発されてきた.これらの製剤は,破骨細胞のアポトーシス誘導や分化抑制などから破骨細胞の活性を非常に強く抑制し,骨量の増加から骨折予防効果を発揮しているが,破骨細胞活性の過度の抑制は骨の恒常性を保つために必要な骨のターンオーバーも抑制することが知られている.カテプシンKが破骨細胞からクローニングされた後に,カテプシンKが濃化異骨症(pycnodysostosis)という常染色体劣性遺伝である骨系統疾患の原因遺伝子であることが発見された.濃化異骨症は骨硬化のほか,低身長や頭蓋の開大を示す.その後,カテプシンKノックアウトマウスの解析では,破骨細胞による骨吸収の抑制があるにも関わらず,ビスホスホネート製剤のような骨形成の抑制はみられない,あるいは報告によっては骨形成が亢進しており,結果として骨量が増加することが明らかとなった.これらの解析からは,①カテプシンK阻害により骨形成阻害を認めない破骨細胞活性抑制による骨量増加を認めたこと,②カテプシンKが破骨細胞に特異的に発現していること,また,③カルシウムではなく蛋白分解能を阻害することによっても破骨細胞の活性が抑制されることから,骨のターンオーバーや形成を阻害することなく破骨細胞を抑制し,骨量を増加させる新たな骨粗鬆症の治療標的としてさまざまなカテプシンK阻害剤が開発された.カテプシンK阻害剤のなかには,臨床試験の過程で皮膚障害を示すものもあったが,odanacatibやONO- 5334は皮膚障害を生じることなく,骨吸収抑制と軽度の骨形成抑制による骨密度増加を示したことが報告されている.濃化異骨症では病的骨折の合併症が,カテプシンKノックアウトマウスでは骨強度の低下も報告されているが,odanacatibは骨折抑制をアウトカムとした臨床第Ⅲ相試験を終え,骨粗鬆症治療剤として近く臨床の現場に登場してくる予定である.先述のように,皮膚障害の発生や骨強度の低下に関しては注意が必要と思われるが,新たな作用機序を有する骨粗鬆症治療剤として注目される薬剤である.骨粗鬆症の診断と治療― 新たな展開