カレントテラピー 32-1 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.1 63代替療法63上より,麻黄湯は単独でオセルタミビルとザナミビルに匹敵する効果があることがわかった.中国からは,Maxingshigan-Yinqiaosan(漢字表記では麻マ杏キョウ甘カン石セキ湯トウ+銀ギン翹ギョウ散サン)に関する論文が2011年の『Annals of Internal Medicine』に発表された6).これは,A型インフルエンザ410症例を全員入院させたうえで,非投薬群,オセルタミビル群,麻杏甘石湯合銀翹散(MY)群,オセルタミビル+MY群に分けたランダム化臨床試験である.それによると,MYを投与した群では非投与群に比し有意に解熱時間が短縮している.また,オセルタミビル+MY群もオセルタミビル単独群に比し有意に解熱時間が短縮している.その他,葛根湯と似たantiweiに関するランダム化臨床試験においても,NA阻害薬と比較して同等の効果があったとする報告がある7).これらの臨床試験の結果より,いくつかの漢方薬が実際にインフルエンザに有効であることが強く示唆される.日本においては,漢方薬は抗炎症作用や解熱剤としての作用しかないと思っている一般臨床医が多いが,単独で使っても非常に効果が高いことがわかる.今後,わが国において,特に麻黄湯に関してはより大規模なスタディを行いその臨床効果,抗ウイルス効果を確かめるべきであろう.2 作用機序インフルエンザに効果があるとされる生薬やその成分に関する報告は多くあり,その作用機序はさまざまである8)~14).麻黄湯は麻黄,甘カン草ゾウ,杏キョウ仁ニン,桂ケイ皮ヒの4種の生薬からなる比較的単純な漢方方剤であり,おそらく抗インフルエンザ作用はひとつではない.インフルエンザウイルスは受容体のシアル酸に結合した後,エンドゾーム内に取り込まれ,そこで細胞膜と融合し,ウイルスRNAが宿主細胞質内に放出される.ウイルスRNAは核内に移行し,宿主の代謝経路を利用して複製・転写され,リボゾーム上で翻訳される.ウイルス核蛋白は,最終的に宿主細胞膜をエンベロープとして取り込んで出芽する.Mantaniらは,麻黄湯構成生薬の麻黄が含んでいるタンニンが,エンドゾームの酸性化を抑えることで,ウイルスが細胞膜に融合(侵入)するのを阻害すると指摘している15).また,Hayashiらは桂皮由来のcinnamaldehydeが翻訳(ウイルスタンパク合成)を阻害している可能性を報告している16).さらに,最近行ったわれわれの研究でも,麻黄湯はin vitroでNAやアマンタジンをしのぐ抗ウイルス活性を有していることがわかっている(図2).麻黄湯に含まれる生薬別でみると,麻黄と桂皮に抗ウイルス活性があることがわかった(論文投稿中).この抗ウイルス活性の機序に関しては,詳しいことは現在のところ明らかになっていない.in vitroにおいて,抗ウイルスサイトカインであるⅠ型・Ⅲ型IFNは,むしろ麻黄湯を添加すると減少するため,他の機序が考えられた.これを踏まえわれわれは,細胞内恒常性維持機構であるオートファジー(自己消化機構)が関与しているのではないかと考え研究を進めている.オートファジーとは真核生物に普遍的に存在し,傷んだ細胞内小器官(ミトコンドリアや小胞体など)を包み込み,ライソゾームと融合することでこれらを消化する作用である17).近年,このオートファジーはウイルスを排除する有効なinnateimmunityのひとつと考えられるようになった.イン0.0 50 100 200 400 800024680 0.1 1.0 10 0 10 100 1,000麻黄湯ラニナミビルアマンタジン(μg/mL) (μM) (μM)Log10 TCID50/mL***** * ***図2in vitroにおける麻黄湯の抗ウイルス効果ヒト細胞株A549に,インフルエンザ(PR/8)を感染させ(1時間),洗浄後に麻黄湯,ラニナミビルまたはアマンタジンを添加し,24時間培養した.その後培養液を回収し,ウイルス量(Log10 TCID50/mL)を測定した.麻黄湯は用量依存性にウイルスの増殖を抑えることがわかった.*:p ?0.05