カレントテラピー 32-1 サンプル

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62 Current Therapy 2014 Vol.32 No.162患者の体力・病期・診察所見(以上を漢方では「証」とよぶ)により使用する薬を選ぶことになる.ここが漢方家の腕の見せ所であるが,逆に一般臨床医にとってはまさにこの複雑さが漢方医学を敬遠する要因にもなっている.しかし,幸いインフルエンザの場合,幼児や虚弱高齢者を除いて,だいたい「証」は一定で,漢方の古典である『傷寒論』によると「実証の太陽病」に分類される.したがって投与する方剤も葛カッ根コン湯トウ,麻黄湯,桂ケイ麻マ各カク半ハン湯トウ,大青龍湯などに限られてくる.わが国の場合,保険収載されていることもあって,医療用エキス顆粒の麻黄湯が使用される場合が多い.つまり,初期のインフルエンザの患者を診た場合,NA阻害薬と同じ感覚で麻黄湯を処方することも可能である.麻黄湯はインフルエンザだけではなく,他の急性熱性疾患(気管支炎や麻疹など)にも効果があるところが興味深い.Ⅲ インフルエンザに対する漢方薬の臨床効果と作用機序1 臨床効果インフルエンザの漢方療法に関しては,現代医学的な臨床試験が少ないのが現状である.このことは,一般臨床医がインフルエンザに漢方を選択する際の最大の障壁になっていることは否めない.学会発表では,インフルエンザに対する漢方薬の効果を調べた報告は多いが,実際に英文で論文化されたもの,あるいはランダム化比較試験を行った報告は少ない.そのうち,Kuboら1()小児を対象),著者ら2)は麻黄湯とオセルタミビルを比較し,Yaegashi3)は麻黄湯+小ショウ柴サイ胡コ湯トウとオセルタミビルを比較しているが,いずれも非ランダム化比較試験である.また,2011年以降Saitaら4)と著者ら5)が,麻黄湯,オセルタミビル,ザナミビルのランダム化比較試験の成績を発表している.以上に挙げた各試験においては,いずれも服薬(あるいは発症)から解熱までの時間(解熱時間)を調べているが,いずれも麻黄湯は対照群と同等あるいは同等以上の解熱効果を有していた.われわれの臨床試験(2009年実施)について簡単に紹介する(図1)5).迅速診断キット陽性であった発症48時間以内のインフルエンザ患者を麻黄湯群,オセルタミビル群,ザナミビル群にランダム化して割り付け,解熱時間,ウイルス残存率,血清中の炎症性サイトカイン濃度を測定した(n=28).投与日数は3群とも5日間で,麻黄湯は株式会社ツムラの麻黄湯医療用エキス顆粒(7.5g/日)を使用した.対象は,19歳から63歳までの成人で,心疾患・呼吸器疾患などの基礎疾患を有するものは除外している.背景因子に差はなく,ウイルスのサブタイプはA香港,Aソ連,B型が分離されたが,パンデミック株は含まれていなかった.解熱時間は,麻黄湯群でオセルタミビル群より有意に短縮しており,ザナミビル群と同等であった.症状スコアは3群間で差はなかった.また第1日,3日,5日に鼻腔内のウイルス分離を行い,ウイルスの残存率を調べたところ3群間で差はなかった.さらに血清中炎症性サイトカイン〔インターフェロン(IFN)α,インターロイキン(IL)-6,IL -8,腫瘍壊死因子(TNF)α〕に関しても,3群間で差はなかった.以麻黄湯オセルタミビルザナミビル204060801000p<0.05解熱時間204060801000120症状スコア改善時間麻黄湯オセルタミビルザナミビル(時) (時)図1麻黄湯の解熱時間および症状スコア改善時間迅速診断キット陽性であった発症48時間以内のインフルエンザ患者を麻黄湯群,オセルタミビル群,ザナミビル群にランダム化して割り付け,解熱時間(服薬開始から解熱までの時間)と症状スコア改善時間を測定した(n=28).〔参考文献5)より引用改変〕