カレントテラピー 32-1 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.1 53インフルエンザ研究の最前線53されたH7N9ウイルスは,鳥インフルエンザウイルス由来であるにもかかわらず,ヒトの体内で増殖しやすい性質をもつと考えられた.この可能性について検討するために,われわれは,各種モデルを用いて,本ウイルスの性状解析を行った.本研究では,中国でヒトから分離されたH7N9ウイルスとして,A/Anhui/1/2013(H7N9ヒトウイルス)を用いた.また,ヒトのウイルスのコントロールとして,2009年に発生した豚由来のパンデミックウイルスであるA/California/04/2009(pdm09ウイルス)を用いた.上述のとおり,H7N9ヒトウイルスは,ヒト型レセプターを認識するHAのアミノ酸変異,および,低温条件下でのウイルス増殖に重要なPB2のアミノ酸変異を有する.H7N9ヒトウイルスのレセプター特異性を調べた研究によると,鳥型レセプターだけでなく,ヒト型レセプターも認識していた11)~13).さらに,このウイルスは,ヒト気管上皮細胞において,低温条件下(33℃)でもよく増殖していた11).続いて,マウス,フェレット,カニクイザルを用いて,哺乳類モデルにおけるウイルスの病原性を調べた.2009年のpdm09ウイルスは,ヒトの季節性インフルエンザウイルスに比べて,哺乳類の呼吸器で効率良く増殖し,病原性も高い14).今回,同様の動物モデルを用いて実験したところ,pdm09ウイルスと同様にH7N9ヒトウイルスは,マウス,フェレット,カニクイザルにおいて,季節性ウイルスよりも高い増殖性および病原性を示すことがわかった11).H7N9ヒトウイルスのHAは,H5N1ウイルスのように,家禽で強い病原性を示すのに必要なアミノ酸配列をもっていない8).そこで,ニワトリとウズラといった家禽モデルを用いて,感染実験を行った.H7N9ヒトウイルスは,ニワトリとウズラの体内で,あまりよく増えず,また病原性もほとんど示さなかった.これは,低病原性鳥インフルエンザウイルスに特徴的な性状である.2 H7N9ウイルスがヒトで流行する可能性についてこれまでのところ,H7N9ウイルスはヒトからヒトへ伝播していない.われわれは,H7N9ウイルスが,ヒト-ヒト間で空気伝播する可能性について検討するために,フェレットモデルを用いた感染実験を行った.その結果,H7N9ヒトウイルスは,フェレットの体内で増殖するときにいくつかのアミノ酸置換を生じ,フェレット間で限定的な空気伝播を起こすようになった.それに対して,鳥のウイルスのコントロールとして用いた群馬で2011年に鳥から分離されたA/duck/Gunma/466/2011株(H7N9鳥ウイルス)はフェレット間で伝播しなかった(図4)11).他の研究グループも同様の結果を得ており12),15),16),H7N9ウイルスは,さらなる変異を獲得することによって,ヒト-ヒト間で空気伝播する可能性があると考えられる.また,人類がH7N9ウイルスに対する抗体を有するかどうか確認するため,日本で採取した人の血清について血清学的調査を行った.その結果,検査した500人すべての人がH7N9ウイルスに対する中和抗体をもっていないことがわかった.さらに,既存または未認可の抗インフルエンザ薬に対する感受性を調べたところ,マウスを用いた実験において,H7N9ウイルスは,ノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性が比較的低いことが明らかとなった.それに対して,承認申請中の抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻3匹中1匹でウイルス伝播ありフェレット間のウイルス伝播なし人から分離されたH7N9ヒトウイルスa) b)鳥から分離されたH7N9鳥ウイルス図4 フェレットを用いたウイルス伝播実験フェレットを用いて,中国でヒトから分離されたH7N9ヒトウイルスの伝播性を調べた.鳥から分離されたH7N9鳥ウイルスはフェレット間で伝播をしなかった(a)のに対して,ヒトから分離されたH7N9ヒトウイルスは伝播した(b).