カレントテラピー 31-9 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.9 91977亜鉛トランスポーターと1型糖尿病長崎大学病院生活習慣病予防診療部准教授 川﨑英二1 亜鉛トランスポーター(ZnT)亜鉛トランスポーター(ZnT)は,細胞質内から細胞外あるいは細胞内小器官腔へ亜鉛イオンを輸送するタンパクである.ZnTには少なくとも10種類(ZnT1~ZnT10)あるが,このうちZnT8は膵島β細胞のインスリン分泌顆粒膜に特異的に発現し,インスリン分泌顆粒腔内へ亜鉛イオンを輸送している.そしてインスリン分泌顆粒腔内へ輸送された亜鉛イオンは,インスリン6量体の安定化に使用される.ZnT8は,アミノ酸369個からなる分子量41kDaの6回膜貫通型タンパクで,ZnT8の遺伝子(SLC30A8 ) は第8染色体長腕(8q24.11)にあり,8個のエクソンにより構成されている.SLC30A8 遺伝子の325番目のアミノ酸残基をコードする塩基には,アルギニン(Arg;R)をトリプトファン(Trp;W)に変換する一塩基多型(rs13266634 C>T;R325W)が存在し,これは2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として知られている.2 ZnT8抗体と1型糖尿病ZnT8抗体は,Huttonらによって2007年に発見された1型糖尿病の自己抗体である.他の膵島関連自己抗体(ICA,GAD抗体,IA-2抗体,インスリン自己抗体)とともに,1型(自己免疫性)糖尿病の診断および発症予知に使用されている.ZnT8抗体の日本人1型糖尿病発症時における陽性率は約60%で,若年発症例(≦10歳)では約80%と高率である.さらに,緩徐発症1型糖尿病における陽性率は約20%と急性発症例に比較し低頻度であるが,劇症1型糖尿病では検出されない.他の膵島関連自己抗体との組み合わせ解析により,1型糖尿病の発症時には90%以上においてZnT8抗体,IA-2抗体,GAD抗体,インスリン自己抗体のいずれかが陽性となるため,ZnT8抗体が陰性の患者では他の膵島関連自己抗体も測定して1型(自己免疫性)糖尿病の診断を行うことが大切である.また,1型糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて抗体価,陽性率は低下し,罹病期間が6年以上になると陽性率は30%以下となる.3 ZnT8抗体とSLC30A8 遺伝子多型ZnT8抗体は,アミノ酸268~369番の約100個のアミノ酸を認識している. 特にSLC30A8 遺伝子多型のある325番目のアミノ酸残基が重要であり,患者の遺伝子型によって2種類のZnT8分子(ZnT8-325R,ZnT8-325W)に対する反応が異なる.つまり,CTを有するヘテロ接合体は両方のZnT8分子に反応するのに対し,CC,TTのホモ接合体は対応アミノ酸残基(325RまたはW)をもつZnT8分子に優位に反応する.これは,患者がもつZnT8分子の種類がZnT8抗体の反応性を決めていることを意味しており,SLC30A8遺伝子多型が不明な場合のZnT8抗体測定には,ZnT8-325RとZnT8-325Wの両方の抗原を使用することが重要である.糖尿病―深化する疾患コンセプト