カレントテラピー 31-9 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.9 39糖尿病―深まる成因・病態論925ENCODE計画の成果が2012年に発表され,ヒトゲノムのほとんどの領域に転写調節や新規転写物などなんらかの機能があることが示された.GWASで得られた遺伝因子の多くは,イントロンあるいは遺伝子間領域に存在するが,興味深いことに,ゲノムにランダムに分布する確率に比べ,機能的領域に分布する確率が有意に高い,という報告がなされた20).GWASで同定されたSNP(あるいはそのSNPを含む領域)の機能的意義も,こうした新しい情報を取り入れて解明が進むと期待される.またいわゆるネットワーク解析,パスウェイ解析により,得られた複数の遺伝因子がどのような機能的な共通点をもつか,という研究も行われている.それにより,糖尿病の病態に寄与する新たな機能的カテゴリーや,複数の遺伝子の機能および発現を調節する「ハブ」にあたる遺伝子,などが解析されている21).またトランスクリプトームなど,他の「オミックス解析」の情報を統合した解析も進められている22), 23).4 遺伝因子と環境因子の相互作用遺伝因子は単独での効果は弱いが,環境因子との関連が検討されはじめている.まず集団においては,ある環境因子に有利な遺伝因子が選択され保存される可能性がある.飢餓の時代にはエネルギーを蓄え,むしろ生存に有利だった遺伝子型が集団で選択・蓄積され,飽食の時代において生活習慣病の原因となっている,という考え方を「倹約遺伝子説」とよぶ24).例えば,このように生活習慣病の遺伝素因のなかには,ある特定の環境因子の下で初めて効果が現れるものがあり,例えばPPARG のPro12Ala多型は,日本人でも米国へ移住したグループ,つまりより高脂肪食の環境でのみ抗肥満,抗糖尿病効果がみられるという報告がある25).ただし,アフリカ→ヨーロッパ→アジアという人類の大移動に伴い,2型糖尿病の遺伝因子のリスク型の頻度は,むしろ低下傾向があるとの報告26)もあり,まだわれわれの知らない環境因子との相互作用があるのかもしれない.個人のレベルとしては,遺伝素因を多くもつ「ハイリスク」の人に生活習慣介入を行うことにより発症や進展を予防あるいは遅らせることが期待されており,すでにさまざまな介入研究においては,そのような結果が報告されはじめている(図5)27).このほか,遺伝―環境相互作用の分子メカニズムとしては,ゲノム配列の変化を伴わずに遺伝子発現調節が行われている.いわゆる「エピジェネティクス」が注目されている.胎児期や幼少期の栄養状態が後年の生活習慣病のリスクに影響するという仮説(DOHaD仮説28))があり,そのメカニズムとしてもエピジェネティクスが想定されているが詳細は不明であり,今後の研究が期待される.対照群薬物介入生活習慣介入10万人あたりの新規発症/年糖尿病新規発症率遺伝子型によるリスク遺伝的ハイリスク群でも,生活習慣の改善で発症をかなり効果的に抑制できる→動機づけにも有効0264810121 2 3 4小大図5 遺伝的ハイリスク群への介入効果(DPP study)〔参考文献27)より引用改変〕