カレントテラピー 31-9 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.9 37糖尿病―深まる成因・病態論923Ⅴ 今後の方向性1 GWASによる新たな遺伝因子同定の試み(図3)新しい遺伝因子を得る動きとしては,GWASをさらに発展させる方法と,GWAS以外の方法がある.GWASの検出力を上げるためには,まず集団規模を大きくする方法が考えられる.2010年に約4,000人を対象とした,アジア人で当時最大規模のGWASが日本から報告され,C2CD4A-C2CD4B ,UBE2E2という新規の遺伝因子が報告された11).このうち,UBE2E2 は日本人などアジア人に特有の遺伝因子である可能性も示唆された.また複数の研究データを合わせてパネルを大きくする,いわゆる「メタ解析」も行われている.すでに白人12)や東アジア人13)からの報告をはじめ,最近ではさらに規模を大きくした解析が報告されている.次にタイピングするSNP数を増やすことで,ゲノムをより密にカバーする方法がある.直接タイピングするSNPの情報とともに,国際HapMap計画などにより明らかにされたヒトゲノムの連鎖不平衡構造を利用して,タイピングしなかったSNPの遺伝子型を推定することで,より多くのSNPの「仮想タイピング」が可能になる.日本人においても,この「imputation」という方法で,先の4,000人の約50万SNPのGWASデータを見直すことで,約220万SNPのデータが得られ,ANK1 という遺伝因子が同定された14).臨床像を細分化して,対象の均一性を高めたり,より明解な表現型を対象としたりしてGWASを行う方法もある.GWASで得られる糖尿病遺伝因子には,インスリン分泌不全にかかわるものが多かったが,臨床像に注目することで,肥満症やインスリン抵抗性に関する遺伝因子も得られている15), 16).また,薬剤反応性を対象としたGWASで,ビグアナイド反応性に関連する遺伝因子としてATM 17)が得られており,こうした成果は治療方針決定に役立つ可能性がある.2 GWASでとらえられない遺伝因子(図3)GWASは,頻度の高いSNPが生活習慣病の遺伝因子となるという,「common disease-common variant仮説」を基盤としており,前述のように個々の効果や浸透率の比較的弱いSNPしか得られないこともわかってきた.そこで,missing heritabilityの中身として,「頻度は比較的まれ(rare variants)だが,効果はもう少し強い」遺伝因子の存在が注目されており,GWASではなく,次世代シークエンサーを利用して,ゲノム網羅的に配列を見直す方法(リシークエンス)が注目される.またヒトゲノムの多様性はSNPだけでなく,挿入,欠失,コピー数多型(copynumber variation:CNV),および広い領域の構造変化など,パターンが非常に多彩であり,それらを網羅的に同定する「1,000人ゲノム」計画も行われHHEXIGF2BP2 SLC30A8TCF7L2 KCNQ1白人で同定CDKAL1 CDKN2Bなどオッズ比1.4~1.5程度オッズ比1.1~1.2程度日本人で同定図2個々の2型糖尿病遺伝因子の効果は小さい2型糖尿病関連遺伝子の多くは普遍的であり,インスリン分泌低下を生じるものが多い人種により頻度や貢献度は異なる.KCNQ1はTCF7L2と並び,現時点で世界で最もオッズ比の高いcommon2型糖尿病関連遺伝子といえる.白人で同定された糖尿病関連遺伝子の多くが,日本人でも疾患に関連している.