カレントテラピー 31-9 サンプル

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36 Current Therapy 2013 Vol.31 No.9922ファーRNAの修飾酵素であり,その異常がタンパク合成(特に膵β細胞ではインスリン合成)の障害や細胞機能異常を生じることが明らかになった7).これはGWASで同定された遺伝因子により,糖尿病の新たな病態が解明された成功例である.Ⅳ GWASからわかってきたこと1 GWASで得られた遺伝因子の特徴GWASで得られる結果はきわめて再現性が高く,したがって遺伝因子としても信頼性が高い.しかも既知の遺伝子機能に依存しないため,それまで疾患への寄与が知られていなかった全く新たな遺伝因子が得られ,新規の病態解明や創薬標的同定に至る可能性がある.ただし同じSNPであっても,人種によりそれぞれのアリル頻度は大きく異なることが,TCF7L2 1), 8)やKCNQ1 3), 4)でも示されており,遺伝的背景の全貌解明には,それぞれの人種でのGWASが必要であることも明らかになった.一方で,いくつか新たな課題も明らかになってきた.まず個別因子の効果が弱いことであり,現在まで主にGWASにより,世界で70前後の2型糖尿病関連遺伝因子が報告されているが,糖尿病オッズ比が最も高いのは,TCF7L2 とKCNQ1 で1.4程度であり(図2),ほかの遺伝因子は1.1~1.2程度である.これは他の生活習慣病でも同様で,GWASで得られる遺伝因子の特徴である.また,得られた遺伝子は「ノーマーク」のことが多く,遺伝子の機能が不明のこともあって,なぜ病気を生じるかわからない場合もある.さらにイントロンや遺伝子間領域の多型のことも多く,どの遺伝子を介して疾患に寄与するのかも不明な場合が少なくない.2 遺伝因子はすべて得られたのかこれまでに報告された2型糖尿病遺伝因子を用いて,糖尿病の発症予測の「遺伝的スコア」を計算しても,「従来の危険因子」による予測モデルを上回ることはできず,予測力を上乗せできる有用性もごくわずかであることが,日本人9)も含めて各民族で示されている.現段階では,2型糖尿病の遺伝的背景のうち,GWASなどから得られた遺伝因子では10~15%前後しか説明できないとの試算もある.この状況は他の生活習慣病においても同様で,未同定の疾患遺伝因子がいまだに多く存在すると想定され,現在のGWASの成果で説明されない遺伝的背景については“missing heritability”とよばれることもある10).また特に糖尿病発症においては,改めて環境因子の重要性も示しているといえる.④大きな領域の発現調節変化イントロンSNPKCNQ1遺伝子~400kb①KCNQ1の発現調節②例CDKN1CDMR(imprintingの異常,など)⑤遠隔の(複数の)遺伝子発現を調節②近傍遺伝子の発現を調節③未知の転写産物のプロモーター図1KCNQ1 遺伝子SNPの機能的意義(可能性)