カレントテラピー 31-8 サンプル

カレントテラピー 31-8 サンプル page 26/30

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 31-8 サンプル の電子ブックに掲載されている26ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 31-8 サンプル

Current Therapy 2013 Vol.31 No.8 97865バイオマーカーとしての画像診断:アルツハイマー病を例にとって東京大学大学院医学系研究科・神経病理学分野教授 岩坪 威神経疾患の診断に,MRIやPETなどの画像診断は不可欠の補助手段であるが,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の新薬の治験・評価において,画像診断は重要なバイオマーカーとなりつつある.ADは高齢者認知症の主因を占める神経変性疾患であり,大脳皮質の神経細胞が脱落し,萎縮すると同時にβアミロイド(Aβ)などの病因タンパク質の異常蓄積を伴う.また病因因子であるAβの降下薬が開発され,グローバル治験も開始されている.ADの主症状は,記憶障害を中心とする認知機能障害であるため,症候改善薬のみならず,神経細胞死を防ぐ疾患修飾薬の効果を判定する場合にも認知機能検査は欠かせない.しかし認知機能検査の結果は,さまざまな要因により大きな動揺を示すため,十分な統計学的パワーを保証するためには,治験の規模と期間が増大せざるを得ない.そこで,脳の病理形態学的,機能的変化を反映する画像診断は,有力なバイオマーカーとなる.MRIはきわめて精密な形態学的情報をもたらす.脳容積は神経細胞やシナプスの残存量を反映することから, 画像情報から算出(volumetry)した脳容積の経時的変化は,変性過程の変化率(rate of change),ならびに治療による改善効果を示す指標となる.事実,MRIによるvolumetryはきわめてばらつきが少なく,再現性が良いことが示されている.フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose:FDG)を用いたPETも,脳代謝の低下を反映する定量的なバイオマーカーとなり得る.FDG-PETはMRIに比して個人間,機種間のバラツキがやや高いが,脳機能を定量的に反映するため,治療薬の治験では薬効をよく反映する期待もある.近年実用化された最も革命的な画像診断法は,アミロイドPETである.アミロイド線維の規則的構造に結合する低分子に放射性アイソトープを組み込んだプローブを用いて,脳のアミロイド蓄積を画像化するもので,一定量以上の脳アミロイド蓄積をきわめて感度よく検出することが可能である.臨床症状のみでは鑑別困難な非AD性疾患を除外するとともに,認知症期以前〔軽度認知障害:mildcognitive impairment(MCI)〕の早期における背景病理の質的診断を可能とし,治験における正しい被験者の組み入れを保証するとともに,認知症への進行(progression)を予測するマーカーとしても有用である.さらにMCIよりも早期の,無症候・病理学的発症期(プレクリニカルAD)の検出も可能となりつつある.これらの画像バイオマーカーを用いてAD発症の自然経過を記述し,治療薬治験に役立てようとする大規模臨床研究であるAD Neuroimaging Initiative(ADNI)が日米で行われており,成果を挙げている.画像診断の進歩―最新技術とその臨床応用